晴れた日、風を受けて爽快に走るだけがオープンカーの魅力ではない。雨が降り注ぐ陰鬱な日にクルマの幌をクローズしてみるといい。しばらくすると、外界から閉ざされたテントの中にいるような空間が生まれてくる。これが男と女、ふたりだけで走っていると、その閉ざされた空気感はやがて親密感に変化する。そして、幌に打ち付ける雨音は、途切れがちなふたりの会話をつないでくれる小気味よいサウンドに思えてくるから不思議だ。

「男と女/Un home et une femme」(1966)。そんなオープンカーのもうひとつの楽しみ方を気づかせてくれる名作だ。主人公のジャン=ルイ・トランティニャン(男)とアヌーク・エーメ(女)のふたりが乗車しているシーンを注視してほしい。常に幌がクローズされ、いつも必ず雨が降っているのだ。

クルマは初代フォード マスタング コンバーチブル。フランスが得意とする抒情性あふれる作品でありながら、なぜアメリカで売れに売れまくっていた車種を選んだのか。この時代、フォードは欧州各国に生産・販売拠点をすでに整備し、GTレースやラリーにも積極的に取り組んでいた。欧州の人たちにとっては豊かでダイナミックなアメリカは憧れであり、監督はそこに新しい時代の到来を予感したのかもしれない。

追記しておかなければならないことがある。この作品に登場する第35回モンテカルロ・ラリーやル・マン24時間レースのシーンだ。自動車好きではなくともこれは必見に違いない。ドキュメンタリー出身の監督らしい見事な映像で、商業主義に染まる前夜のレース界とレーサーたちの貴族的なライフスタイルが描かれている。とりわけスリリングなラリー・シーンでは、監督自身も爆走するワークスマシンに乗り込んでドライバーの視点からレース現場を撮影している。【文・小口久貴】

DVD発売告知(2017年5月2日)
「男と女/Un home et une femme」1966年フランス映画
『男と女 製作50周年記念 デジタル・リマスター版』DVD/Blu-ray 好評発売中!
発売元:ドマ、ハピネット
販売元:ハピネット
©1966 Les Films 13