自動車史に残る一台。戦前車が持つヘリテージの魅力とは

ヘリテージカー・ビギナーズ。実際購入するにあたり、選び方や知っておきたいことを、専門家に指南してもらう企画ですが、今回は車の歴史を学ぶ意味も込めたお話。

19回目のなる今回は、戦前車などのクラシックカーを取り扱うブレシア。100年作り続けられている工業製品、”自動車”の原点にある変わらぬ魅力を教わります。


 

ブレシアさんはどのような車を扱っていますでしょうか?

森氏(以下M)「基本的に1900年頃からのクラシックカーを扱っています。私自身が40年程外国車の整備をしていますから、国で言うとイタリアやイギリスがメイン。クラシックカーも戦前と戦後で大別されますが、比較的戦前車の取り扱いが多いですね」

戦前車というと…どういった方達が乗られていたんでしょうか?

M「その当時はやはりお金に余裕がある富裕層ですね。元々自動車は馬車から発展して、ホースレス・キャリッジ(horse-less carriage:馬なしの車両)といって、馬の代わりに馬車にエンジンを積んで走らせたのが、四輪車の始まり。ですから当時日常の足として馬を用いるような、上流階級の人間ですね」

では、その戦前車の魅力についてお話を伺っていきたいと思います。こちらはどのような車ですか?

M「これは1936年製、イギリスのAustin7という車です。戦前のイギリスでヒットした歴史的な大衆車。車の形もクーペ、サルーン、バンなどいろんな種類がある中で、この車はオープンのスポーツモデルになります」

こじんまりとしていて、可愛いサイズですね。

M「そうですよね。すごくコンパクト。英国車の中では一番小さいと思いますよ。ボディの小ささに対して、タイヤの大きさが17インチもあってちぐはぐなスタイリングですよね」

この車のポイントはなんですか?

M「やっぱり二人乗りというところですかね。屋根の無い二人乗り。これだけでもうスポーツカーと言えるんですよ。速くなくたって、風を感じながら乗れるじゃないですか。トランクは後ろにも横にもつくので、小旅行なんて楽しみ方もできると思います。このトランクも馬車の時代の物と繋がっていて、元々ルイ・ヴィトンなどのトランクメーカーが、旅行のための荷物を運ぶためのバッグを作って、馬車にくくりつけて走ったところが原型となっています」

ここまで古い車だと、修理などは大変ではないでしょうか?

M「古いから、という理由でそう思われてしまいがちですが、実際のところ古いが故に部品点数が少なくて故障も少ないんです。こちらに修理を終えたエンジンを展示していますが、構造自体がすごくシンプルなので、今でもしっかりと修理する事ができます。想像より維持は簡単ですよ」

この車の一番の魅力はなんですか?

M「馬車などから始まった、人間が移動をする手段で、機械を動力とした最初の存在。自分の意思でどこへでも連れて行ってくれる。これが戦前車の、自動車の始まりの魅力じゃないかと思います。その中でも自動車の原型に触れられるのがこうした戦前車の一番の魅力だと思います。 この車の原型は1920年頃に生まれて、ほぼ100年たった現代まで自動車は作り続けられていますが、相変わらずタイヤは4本あって、それをハンドルで操作して、エンジンで動く。車の原型はずっと変わっていないんですよ」

クラシックカーは機能的な面で現代の車に劣ってしまう部分は少なくないと思います。それでも選ばれる、クラシックカーの魅力を教えてください。

M「今の車は、とにかく安全性、燃費だとかが最優先で、デザインにしても空気抵抗などありきのコンピューター頼りの設計。利便性ありきの工業製品というか、作り手の姿が見えないんです。でも古い車っていうのは、作っている人の作りたい理想が表現できた、製品というより作品に近い感覚なんですよね。最近の車は制約があり過ぎて、デザイナーの力が発揮しづらい。デザインに少し角を持たせたら、ぶつかったら危ないと言われてしまう。やはり安全性やコストよりも、ずっと作り手の理想が優先された時代のモノの方が魅力的ですよ」

自分にとって、クラシックカーとはどういう存在ですか?

M「なんと言えば良いんでしょう、見ていても楽しいし、乗っても楽しい自分の好きなモノではあります。ですがなによりも自分と好きな所へ好きなだけ旅してくれる、相棒と言うのが一番しっくりきますね」

最後に、このAutomobileCouncilへの想いをお聞かせください。

M「本来こういうヘリテージカーをたくさん見るには、自分で何箇所も専門店に足を運ばないと見れないものですよね。こういった場に一堂に会する機会は本当に貴重だと思います。古いものを大切にするというのはただの金持ちの道楽ではなく、1つの文化ですから。温故知新ということわざのように、古いものを知らないと今の物の本当の良さとか悪さはわからないですから。とにかく日本では他に無いようなイベントですから、今後も続いて欲しいですね」

photograph: Taku Amano
edit & interview: TUNA
text: Chihiro Watanabe