モーリス・マーティーさんは現在81歳。パリ左岸のモンパルナスにアトリエ兼住宅を持っている。モンパルナスといえば、20世紀前半にアーティストが集う地区として名を馳せた世界的に有名な場所。狂乱の時代と言われた「ベル・エポック」にてアーティストがアトリエを構え、老舗のカフェで芸術論に華を咲かせる….そんな活気溢れる場所だった。アーティスト、インテリアデザイナーなど多くの肩書きを持つ彼がこの地区に居を構えるのは偶然ではなく、当然の運びだったのではないだろうか。その彼が、メルセデスベンツ170S カブリオレのほかに、メルセデス 190 SL、フォルクスワーゲンのコクシネル1303の3台を自家用車として所有している。なかなか他の人には真似が出来ないレベルのクラシックカーマニアだ。クラシックカーを愛し、人生を謳歌する、彼の魅力があふれるマーティのアトリエを訪れた。追記だが、彼のメルセデスベンツ170S カブリオレがフランスの雑誌で6ページにも渡り紹介された際に彼が語った印象的なストーリーをご紹介したい。「子供時代に、真夜中に石畳を走るタイヤの騒音によって起こされることがあった。それは彫刻家のセザール(20世紀後半に活躍した有名な彫刻家)の帰宅途中の出来事だったことがわかった。それがまさにメルセデスベンツ170S カブリオレ。その後、彼はこの著名な彫刻家と友人となる」。メルセデスベンツ170S カブリオレはどうやら有数なアーティストを魅了する名車だと認識させられた。

たくさんの肩書きをお持ちですが、まずは仕事に関する概念を教えてください。

M「インテリアデザイナーとして、多岐に渡る仕事をしてきました。パリで有名なセレクトショップのレクレルール、ジャン=ポール・ゴルティエほか、レストランやクラブなど数えきれないほど多くの仕事に携わってきました。それがパリに限らずアメリカ、モロッコ、日本にまで広がっています。仕事は昔から自分からPRをすることはなく、常に自分の仕事の結果を生むことによって広がってきました。要するに、クライアントが私を見つけてくれるのです。レストラン、ブティック、クラブなどまったく異なる空間であっても、目的は一緒。クライアントの要望を反映させつつも、それに見合ったポエティックな自分の世界を表現することに興味を持ちました。その大きな関心のもとに、いつの時代もアクティブに活動することができたのです。それ以外に、家具のデザインはメタル、ボルト、ビニールといった素材を使ったアバンギャルドなもの。彫刻でのコンセプトはパズルのように組み立て解体できるフォームであること。絵は現在まで4つの異なる時代がありました。最近は点によって描くことに興味があります。現在、絵画などはアメリカを代表とする海外のギャラリーから展示の依頼があります」

芸術に興味を持ったきっかけは何でしょうか?

M「私の両親もアーティストだったことから、自然にアートの世界に導かれていました。学校の勉強以上に絵画に興味があり、14歳でパリのデコレーション学校に入り、18歳で空間建築の学業を修了。とはいえ、まだまだ若かったので、その後ボザール(国立高等美術学校)に入学し、建築の勉強に没頭。ボザール時代の研修では、有名な建築家であるJean Bossuなどの仕事を経て学生でありながらもよい経験を積みました。不運なことに68年の学生運動に遭遇し、結果的に建築家としてのディプロムを取得できず。しかしその困難の中においても著名な建築家との仕事による経験がその後の自分の仕事に還元されました」

車との縁なのか、ここはもともと車のガレージだったという建物。1階はサロン&キッチン、2階はアトリエ、3階が住まいといった構成。サロンの至る所に彼の作品が並んでいる。それは家具であり、絵画であり、彫刻であったりする。

愛犬のメルシーMerci.彼のクラシックカーの乗客。

この車で気に入っている箇所はどこですか?

M「この白いハンドルはとても希少ではあるのですが、それ以上に子供の頃にハンドルを回して遊ぶことに没頭していたので、ハンドルには感傷的な思いがありますね。フロントのライトが外付けというのも珍しいのです。このようなクラシックカーのパーツの入手は困難で、隣国まで追わないと揃いません。モーターは去年問題が生じて修理したばかりなので、モーターもメーターも完璧な状態です。フランスではコレクションカーとして街の中を走るために、状態が良好なことは必須ですから。現在、この車はフランスで6台程度しかなく、1948年の世界大戦終戦直後、ドイツで最初に作られた車という貴重なものです」

クラシックカーに拘る理由を教えてください。

M「私のクラシックカーへの意識は1789年のフランス革命の時代に遡ります。私の父方の祖先が水素を燃焼させるエンジンを発明したことによります。De Rivaz です。その後、自分の親も、戦前に自分の車と同レベルの素晴らしい車を愛用してました。車の匂い、エンジン、メカニックにもおいても関心を持たずにいられませんでした。なので、現在乗っているクラシックカーはどれもメカニックに優れたものばかりです。すべて自由自在に調整ができ、インテリジェントに動いてくれるところが、現在の扱い易いオートマ車と異なり、とても興味深いのです」

いまだかつて新車を買われたことはありますか?

M「1度ありました。まったくの新車でしたが、4〜5 年乗って売却しました。子供や愛犬とのバカンスのために購入したのですが…しかし勝手が悪く、それ以来新車にはまったく興味がありません!」

クラシックカーの魅力を教えてください。

M「クラシックカーは人間が彫刻や絵画と同じように、芸術的な作品とすることに成功したものだと思っています。自動車の技術進歩は、偉大な芸術家達が展開していった芸術的ムーブメント(デザイン)と一致しつつ進展していったのですから。こうした芸術的な動きと併行して、クラシックカーも完璧に美しいデザインを作り上げていったのです。私にとって、クラシックカーは19・20世紀における芸術の傑作品だといえます。それゆえにこの素晴らしく美しいクラシックカーは、私の人生の一部といっても過言ではないのです。」

ほかにもクラシックカーをお持ちのようですね。

M「フォルクスワーゲンの1303は1976〜1978年のわずか2年間のみ製造された貴重なもの。以前同モデルのシルバーに乗っていたのですが、かなり傷んでいたので売ってしまいました。とはいえ、とても好きな車だったのでずいぶんと時間をかけて探した結果、なんとスペインに近いバイヨンヌあたりで見つかったのです。このコクシネルは常にアトリエ兼住居の前の袋小路に駐車し、身軽なタウン用として利用しています。さらにベンツの190SLもあります。170Sが110km/hくらいのスピードなので、スポーツカーの190SLは長距離やアップダウンの道に適しているので、そのあたりの使い分けをしています」

夏のバカンス時にクラシックカーに乗っているそうですが、どのように車を運んでいるのでしょうか?

M「夏のバカンスは毎年コートダジュールの有名な避暑地のサン・トロペに行っています。パリのベルシー駅から車運搬用列車がでるんですよ。ここで車を預けて、列車が目的地となるサン・ラファエル(サント・ロペの近く)に着く時刻に合わせて私たちもサン・ラファエル駅に行き、そこで車を受け取ってサン・トロペまで走らせるのが恒例です。さすがにパリとサン・トロペ間は1000km近くありますからね…。」

photograph : Yasuhiro Yokota
edit : Takafumi Matsushita
text : Tomoko Yokoshima