「スタイリストである以上、車も生活もマイノリティーでありたい」

ミュージシャンなどトップアーティストのスタイリングを多く手がけ、さらに『deal.』というジュエリーブランドのディレクターとしても活躍されている清水勇一さん。日本のストリートカルチャーに多大な影響を与えている彼が選んだ車は『GMC 9300 パネルトラック』。「クラシックカーは作り上げていくモノ。今はまだ作り上げている段階で、いずれ車の中を自分の部屋のようにしたい」という彼の愛車には様々なこだわりがあった。スタイリスト&クリエイターならではのモノ選びとは? 彼の根底にあるモノとは?

清水さんはスタイリストとして多くのミュージシャンなどのスタイリングで活躍されていますが、スタイリングの面白いところとは何でしょうか?

清水氏(以下清)「自分の好みより相手の好みを考えてスタイリングを組む仕事ですが、でも毎回相手に合わせるばかりだと面白みがないので相手の好みを知っている上であえて好みから外してみたり、新しいスタイリングを提案するところ。相手の好みをスタイリングすることは誰でもできるけど、自分のこだわりを通すことも大事だと思っています。自分の思い描いているスタイリングが形になった時が一番喜びを感じますね。ミュージシャンの方達はスタイリング用に服を持って行った時にそのまま買い取ってくれることが多くて、自分では持っていないけれどカッコいいモノを持って行って買い取ってもらえることができた時は楽しい。『芯食ってるな』って思いますね(笑)」

ジュエリーブランド『deal.』のデザインをやっていらっしゃいますが、それを始めたきっかけを教えてください。

清「スタイリストの仕事はメンズばかりだったのですが、より繊細なモノを作れないかなと思い、レディースジュエリー『deal.』のデザインを始めました。僕は根っこの部分が繊細なので。だけどモノ作りってスタイリングとはまた違い、やっぱり簡単じゃなくて、思った通りのモノが全然出来なくて。ここにきてそれがまるで修行のようです(笑)。スタイリングはどんな仕事でもある程度イメージしたものを自由に作ることができるのですが、モノ作りはそうはいかない。買ってくれる人がいて、ジュエリーの原型師がいて、生産工場があって、簡単に物事を回しちゃいけないんだって感じました。そこが僕には足りてなかった部分。何年か前『deal.』を始める前までは自分の直感を大切にしていましたが、今はじっくり考え直すっていうことをやっています。それが本業のスタイリングにも繋がっていて、今は一回組んだモノをもっと他の良い形でスタイリング出来るんじゃないかと考えて、試行錯誤しながら。直感だけに頼らず、もっと違うスタイリングを考えて提供しようと思っています」

それではGMC 9300 パネルトラックに関してですが、選ばれた理由は何でしょうか?

清「最初に買った車は71年のセドリックで、次の車は66年のマスタングだったのですが、今回の3台目に関しては、70年代60年代ときたら次は50年代もいってみたいと思って。実は若い頃からアメリカの50年代の車に憧れがありました」

クラシックカーに興味を持ち始めたのはいつ頃か教えてください。

清「小学生の頃から古いモノが好きで、あの頃から変わらず好きなのは、アメリカのヴィンテージ。この車の荒さや雑なところは自分の性格にはない部分。そんな両極端に違うモノに惹かれます。スタイリストの仕事も繊細で細かいところが多いので、そんな仕事が続いた時にこの車に乗ると気持ちに余裕ができますね。あと仲間がすぐできる。マイノリティーが好きな人は周りに一癖二癖ある人が集まるよね。そこが良い。知らない人も話しかけてくれたりするので繋がりや和っていうのは広がる。あとは名刺代わりになるかな。ずっとこの車に乗っているから認識されやすい」

外装で気に入っているところは何処ですか?

清「バイザーは絶対付けたかったですね。あれが一番気に入っています。バイザーがないと日光がすごく強い日は窓が直角なので眩しいんですよ。あとホイールとタイヤは雰囲気に合うものを探したので気に入っています。エンブレムはホイールに合わせて赤に塗りました。バイザーも塗りたかったんですけど、体力が持たなくて断念しました(笑)」

この外装にペイントしてあるネズミの絵がとてもかわいいですね。

清「友人のスケッチさんというローブローアーティストに描いてもらった絵です。スタイリストっぽいやつ描いてよって。実はネズミは僕自身なんです」

クラシックカーだからこそ体験したエピソードを教えてください。

清「一昨年くらいの夏に湘南の海に行った帰りに湘南バイパスを通っていて突然カチッて音がして、もしかしてと思った時にはもうダメでしたね。エンジンが焼きついちゃって。真夏はダメだなぁ…(笑)今は新しいエンジンを積んでいます」

やっぱり修理は大変でしたか?

清「そうですね。特殊な車なので修理をやってくれるところが少なくて、結構待たされました。あまりパーツもないので、エンジンや足回りで自分ができることは自分でやっていて。じゃないと乗ってられないですよ(笑)」

愛車でよく出かけるところはありますか?

清「趣味で釣りをやっていて山に行くことが多くて、飽きたら自転車やスケートボードを使って遊んでいます。あとはよく仕事で使いますね。仕事柄洋服もたくさん乗せて仕事場に行きます。この自転車は10年前くらいに買ったんですが、この色がたまらないですね。他にハーレーで遊びに出かけることも多くて、この車にトラブルが起こった時にはハーレーを車に乗せて修理に出したりしますね」

クラシックカーには欠かせないところは何でしょうか?

清「エンジン音。旧車のドロドロなサウンドがグッときますね。迷惑かもしれないけど好きだからやめられない。現行車は静か過ぎる。それはそれですごいけど静かな車は乗っている気がしないですね。旧車のメカノイズが好き。みなさん旧車に乗る理由の一つは音だと思います」

次に乗ってみたいクラシックカーはありますか?

清「キザな車に乗りたいですね。例えば、映画『アメリカングラフィティ』に出ていた60年代のサンダーバードのような車。それにこれ乗る前の66年のマスタングは、内装がポニーインテリアの真っ赤でキザな部分があった。その感じも良かったので、もう一回60年代の旧車がいいかな。サイズ感、内装の豪華さを含めて。50年代までいっちゃうと今の気分としてはクラシック過ぎと感じます。あとやっぱりスタイリストである以上車も生活もマイノリティーでいたいので個性は無くしたくないですね。周りから見たら僕は変わり者かもしれないですけど(笑)」

最後にクラシックカーの魅力とは?

清「人付き合いと一緒ですごく好きな時もあるけど面倒くさい部分もあったりして。すごく嫌だなって思う時もあるし、良いと思う時とすごく波があるんです。もう別れようかなってなる時もありますよ(笑)。これまで思ったモノを探していれば希望していたモノに出会えてきたし、人に関しても必要な時に必要な人に会えたりしてきました。自分は運がいいと思っていて。なんとなく、次の車もいいヤツに出会えるかなと思います」