代表 加藤哲也コラム Vol.2
Aのひと文字がもたらす快楽

2016.05.26 | Special

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R、V、HF、RS‥‥。

たったひとつのアルファベット、あるいはその羅列に胸熱くなるのだからクルマ好きは単純だ。

いやここではロマンチストと言い換えよう。

僕自身、たったひとつのアルファベット、Aの一文字に恋い焦がれ生きてきた。Rがレース、Vがヴェローチェの略であるように、Aはイタリア語のAlleggerita、すなわち「軽量化」に由来する。

要はボディを軽くすることでダイナミクスの向上を図り、スポーツ性、ひいてはレースでの戦闘力を高めようとしたモデルである。

アルファ・ロメオ・ジュリア・スプリントGTA。

単なるGTや、その高性能版であるGTVがスチールボディだったのに対し、GTAだけはアルミニウムボディを採用。その結果飛躍的に性能が向上し、ものの見事にヨーロッパ・ツーリングカー選手権チャンピオンの座に就いた。

僕が初めて所有した輸入車はアルファ・ロメオ。20代半ばで無理を承知で中古で手に入れたアルファスッド・スプリントというモデルである。

エンブレムに描かれる蛇の毒に心底やられたのはその時だ。1.3リッターフラット4が発するパワーは高々76psに過ぎなかったのに。

“下りのオオカミ上りのブタ”

まさにそんな言葉が相応しいクルマだった。しかしどんな場面でも操縦する実感に溢れていた。洗練されたフットワークの持ち主でもあった。メカニズムも先進的だった。そんなアルファの純度の高さを日々実感するうち、GTAへの憧れが、自分でもどうしようもないほど高まっていったのである。

だから40代初めについにGTAを手に入れたときは有頂天だった。長年の恋、片思いがついに実ったのだから。

ヒストリックカーレース用にストリップダウンされた内外装は戦闘的だし、ツインチョーク・ウェバーの奏でる吸気音、排気管から流れ出るエグゾーストノートも官能的だった。

そりゃ1965年生まれだから、操縦はフールプルーフとはいかない。デリケートさと、ときに大胆さが要求された。最初はうまくコミュニケーションできなくても、慣れ親しむほどに理解が深まった。機嫌のいい日、悪い日が簡単に見破れる。

音や匂い。モダーンカーならまず気にしない感覚まで研ぎ澄ませて操る自分がそこにいた。

進化した機械の冷たさではなく、生命の息吹を感じながら走ることの何と楽しいことか。

自動車の魅力は絶対的な速さや、パワーの大小だけではかれるものでは決してない。魂に訴えかけてくるような根源的魅力が感じられること。

事情があって手放した今も、GTAがもたらしてくれた快楽の甘い記憶は、胸の奥深くに生き続けている。

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