「まさに文化遺産級。憧れのクラシックカーを、受け継ぐ。」

憧れのヘリテージカー。実際購入するにあたり、選び方や知っておきたいことを、専門家に指南してもらう新企画。それぞれのクルマの歴史や他にはない特徴などにもお答え。一緒に、玄人が唸る希少なクルマも教えてもらいました。

今回は世界的にも数が少ない厳選されたクルマ達を扱う「Classic Car.jp」。
クラシックカーを大人の趣味として楽しむ生活を提案しています。



Classic Car.jpさんはどのような車を扱っているのでしょうか?

小嶋氏(以下K)「幅広く扱っていますが、特にイタリアの車は得意としていますね。フェラーリやアルファロメオだったり、フィアット、ランチアなど。年代で言うと1918年からになります」

主に、どのような方達が乗られているものになるのでしょうか?

K「イタリアの自動車文化は、根本に一つのものを長く大切に使うというのがあるので、伝統的におじいちゃんから息子へ、孫へと代々引き継がれていくんですよ。なので現地では70代から30代くらいまで幅広くクラシックカーを大切にしている事が多いんです。日本ではなかなか、そういうのは少ないですよね。日本での自動車は道具感が強く、新車から六年で償却したり、リサイクル法だったりとどうしても使い捨てという意識が強いですから。故にこうしたクラシックカーを愛好される方の年齢層は高めになっているのが現状ですね」

イタリアでは、どのように大切にされているのでしょうか?

K「イタリアではクラシックカーを走らせるイベントが必ず月に1回以上は開催されていたりと、非常に多いんです。だから見る機会も必然的に多いんですけれども、そこで子供時代から、お父さんやおじいちゃんの乗るクラシックカーを見て、憧れて。こうして代々受け継がれているのです。こうした文化が生き残る理由の一つに、イタリアでは相続税が無いことが挙げられますね。だから家も車も、代々継承していく。日本は違うじゃないですか。まるで三代で資産をなくすような法律すらありますよね。重たい話ではあるんですけど、ものすごく深い話ですね。日本でも昔スーパーカーブームというのがあって、子供達は皆スーパーカーの姿に憧れたんですよ。ただ街中を格好良く走っているだけで、あの人かっこいいな、あんな風になりたいな、と憧れる。今の日本の子供達は、バーチャルの世界ばっかりになってしまって、そういう機会も少ないから、当然憧れたりもできない。すごく勿体ないですよね」

それでは、今回展示してある中で一番ビギナーの方達が手にしやすい、オススメの車を教えてください。

K「この中だとどれもなかなか難しいですけれども、あえて言うならO.S.C.A DROMOSですね。初心者にはこれが一番乗りやすいかと思います。この車は、開発されて量産の準備をしている段階で世界経済の悪化の影響を受けてしまって、一台しか作られなかった幻の車なんです。ボディーはツーリング社のSuperLeggeraというもので、ミラノのメーカーなんですけども、そこにスバル製の水平対向エンジンを搭載した、野心的な車ですね」

K「この車は後ろのスタイルが非常に美しくて、この車をデザインしたデザイナーのスパーダさんが今まで自分がデザインした車の中で一番気に入っているデザインだと語っています。この屋根がダブルルーフ、いわゆるダブルバブルになっていて、これで頭上のスペースを確保しているんですけれども、この特徴的な卵形も非常に美しいですね」

内装も、なかなか今の車には無い独特の雰囲気ですね。

K「そうですね、必要最低限で全体的にスパルタンな造りですけれども、アルカンタラをところどころ用いていたりと、お洒落も欠かしていないんですよ。シートや助手席の前とかワンポイントではありますが、バックスキンのような感触で触り心地も非常に良いですね」

乗り味はどうでしょうか?

K「SuperLeggeraは軽量という意味ですから、とにかくボディは軽く、ライトウェイトな仕上がりです。このボディサイズで1トンを下回る軽さですから。美しい上に軽くて楽しい、素晴らしいパッケージングですが、何分世界に一つしかないですから。もし壊れたら、パーツは作るしかないですね」

それでは、玄人のクラシックカー愛好家の皆さん向けに一番魅力的な車を教えてください。

K「これですね。FERRARI 750 Monza。1955年です。これはコンペティションカーで世界に31台しかありません。生産がそもそも31台しかない上に、コンペティションを戦う車なので当然事故だったりで、今現在残っているのはとても少ないと思われます。ほとんどの車は運転席側にも助手席側にもドアはあると思うんですけれども、この車は運転席側にしかドアがありません。これはボディー剛性を上げるためです、どうしてもドアを作ってしまうと、ドアの部分でねじりが発生してしまって全体の剛性、いわばボディの強度が落ちてしまうんです。それを少しでも減らすための、一枚ドアですね」

デザイン面の魅力を教えてください。

K「すぼんでから、中央に行くにつれてふくらんでくる横からのフォルムがポイントですね。なにしろ早く走らすためだけの、レースで勝つためだけの車なので、乗り心地や快適性は一切関無視してフェラーリというブランドの知名度を上げるために作られていますから、売る事を前提に考えていないんです。現代で言うF1と一緒です。あれって勝つためだけのもので、売る事は考えてないですよね、それと一緒です。だからこそ当時は本当に造形美を大事にされたんです。普通の市販車はお客様のニーズに合うように作る訳ですが、これはとにかくイメージ最優先。それゆえの美しさが魅力ですね」

乗り味はどうでしょうか?

K「この車は結構高さが低いですよね。これはエンジンの搭載位置がものすごく低いのも要因の一つなんですけれど、これは重心を低くしてカーブを曲がりやすくするためのものです。なるべく地面に近く、重心を低く、そうすることでコーナーをシュッと曲がれます。なので運転していて凄く楽しいんです。それとボディーも全て鉄より軽いアルミなんですよ。軽い代わりに寿命は短いですが、それだけ走りには特化しています。あとポイントはカウルですね、運転席の頭のもり上がっている部分ですね。このデザインがすごく特徴的でかっこいいです。機能的には転けたなどに頭を守るためで、ドライバーの安全を考えたものになりますね」

こうしたクラシックカーに乗るというのは、やはり大変ではないでしょうか?

K「この辺のクラシックカーは戦争を何十年も乗り越えて、愛好家から愛好家へと大切に受け継がれています。確かに、買って貰ったらお客様の物になるんですけれど、同時に次の世代へこの車を引き継いでいくという使命が発生するんですね。もうここまで文化遺産級の車になると、自分のものでありながら自分の物ではないんですよ。なのでそこをちゃんと理解してくれる方でないと、委ねることができません。この車たちには値段は一切書いてないんですが、これはもちろんお金があれば買えるんですけれど、お話をして理解を頂いて、その後の生活スタイルが見えて、後世に引き継いでいただけるという確信が出来て初めて価格のお話をさせて頂いています。私たちは、引き継いでいただく情熱のある方でしたらお安く売るのも全然構わないんです。しかしながらこの前、あの青い車がどうしても欲しいと意気込んで、情熱を持った方がいらしたんですね。僕が横に乗せて一回り走りに行ったから、今の話を全部お話ししてから、お帰りになられた次の日に『やっぱり僕は重みに耐えられない、申し訳ない、諦める』とメールを頂きました。某会社の社長で、お金もお持ちなんですが、この車にはそれ以上のものを感じていただいたんだと思います。こういったケースもありますね」

では、ヘリテージカーが現行車と違う魅力はどういった点にあると思いますか?

K「エンジンサウンドですね。それがやっぱり一番違いますよね、今の車とは全く違う、迫力があるんです。もちろんデザインも様々で、僕にとっては夢であり、夢を与えてくれる車ですね。ずっと見てるだけでも飽きないし、乗ったらもう最高!って」

最後にこのAutomobileCouncilというイベントへの想いをお聞かせください。

K「日本ではこういったイベントは本当に無いですから。日本は自動車メーカーがこんなに沢山あるのにも関わらず、売ることばっかりなんですよ。根本的に、自分たちのメーカーの車のファンを作ることが必要だと思います。そのメーカーのよさを理解していただいて、そのうえでそれを伝えて長く乗ってもらう。結局乗り継ぐという文化が無い訳ですから、勿体ない話だと思いますね。この文化をどうにか少しでも変えることができて、自動車文化が日本に根付く事を心から願っています」

Photograph:Taku Amano
Edit & interview::Tuna
Text:Chihiro Watanabe