「猫足プジョーの魅力に釘付け!」

憧れのヘリテージカー。実際購入するにあたり、選び方や知っておきたいことを、専門家に指南してもらう新企画。それぞれのクルマの歴史や他にはない特徴などにもお答え。一緒に、玄人が唸る希少なクルマも教えてもらいました。

今回はプジョー、シトロエン、ルノー等、フランス車のある生活をサポートする「原工房」。特にプジョーの走り、乗り心地の良さをアピールしています。


 

原工房さんはどのような車を扱っているのでしょうか?

原氏(以下H)「フランスのプジョーを中心として、シトロエンやルノーの一般的なものは扱っています。特に、専門性の高い旧車にこだわっているわけではなく、一般的な現代の大衆車というか。
シトロエンとかは、野心的な技術が多い反面やっぱり維持には苦心しますから。その点、プジョーは平均点というか、凄く良い物が付いている訳ではないけど、悪い物は決してついていないという感じなんですよね」

プジョーのどの年代の物を中心として扱っているんでしょうか?

H「基本的に、プジョーは1985年にARJ(オースチン・ローバー・ジャパン)という会社が本格的に輸入を開始したんですけど、その時に入ってきたプジョーの205っていう車が人気になって、皆プジョーを知り始めたんです。なので、年代的にはその205以降が中心ですね」

他の車とは違う、プジョーの魅力とは何でしょうか?

H「そんなに個性的なわけではないけど、スプリングを使っている割にはすごくいい乗り心地とか。今も昔も変わらない吸いつくような直進安定性とか。技術的には横にトーションバーを使うことで、前に荷重がかかる。その分ハンドルを切った時に路面から振動がはっきり伝わる。
今の車は、電動化されてハンドルをきっている感覚があまり無いと思うのですが、プジョーは電動でも油圧のような動きをするから、振動とか、ハンドルをきっている感覚とか、操作感があって凄く楽しい。これに皆やられちゃうんですよ」

単なる移動のなかでも、運転している楽しさや感触とかを大切にしているんですね

H「よく言われるのがジャーナリストやいろんな人が、昔、広報車を借りて御殿場とか目的地に行って帰ってくるのが仕事パターンだったらしく。ところがプジョーに乗って行くとその先も行きたくなっちゃうと聞きました。もうちょっと、もうちょっと…って」

なるほど、それでは今回の展示の中で初心者の方におすすめできる車はどちらになりますか?

H「3台の中であれば、1番オススメは405ですね。これはオートマチックなので、これなら普通に乗れると思うんです。でも、乗り味がかなり良いので、これを乗ったら次はマニュアルに乗りたくなっちゃうと思うんですよね。4ドアで右ハンドルのオートマチック。これが基本だと思うんですね。なおかつ、操作するのにそれなりの楽しみがある。ただ、絶対的な速さはないですよ。速さは求めちゃいけないです。あの非力なエンジンを一生懸命回して走るのがフランス車なんで、エンジンと足回りの絶妙なバランスが味なんです。エンジンがすごいベンツやBMWのような、エンジンで走るような車とは違う」

バランス…そこがプジョーが求めたものなんですね。

H「プジョーは昔からそうなんですが、エンジンが勝っちゃ行けないんですよ。やみくもにパワーを上げれば、それを受け止める足回りや駆動系を強化しなくちゃいけない。その辺がプジョーの車の作り方なんですよ。車のどこかを強化して、それと引き換えに寿命が短くなるみたいなのはダメ。絶妙なんですよね」

405のデザイン的な魅力はどこでしょうか?

H「やっぱり、このズボッとしたスタイルは独特ですよね。205も405も同じピニンファリーナのデザインなんですけど。この形は彼が同時期に手がけたアルファロメオの164とも似ています。天井は電動で開いたり、ちょっとおバカなオートエアコンが付いていたり…でも今となってはこれと言っていいもんは付いてないですよ。決して凄いものは付いてないんですよね、だから…逆にそこがいいんでしょうね。限りなくベーシック、でも乗り味は素の素材の良さというか、抜群ですよ」

では、ちょっと通な車好きに受けがいいものはどちらになりますか?

H「やっぱりね、205も309も405も良いんですけど、309なんかはそもそも台数が少なくて乗ってる人がほとんどいない。日本では輸入台数が少ないですね。
そんな309に乗ったことがある人は“すごい良かったよね”って絶対に言いますよ。
隣の205とは同じエンジンが乗ってるんですけど、こっちはヨーロッパ仕様で130馬力のエンジンなんです」

日本仕様とヨーロッパ仕様、何か違うんですか?

H「日本ではエミッションコントロールと言って、排ガス規制が厳しいんです。だから、排ガスを減らすために意図的にパワーを少なくしたり、色々と制限しているんです」

ちなみに、これが日本にあまり輸入されなかった理由はなにかあるんですか?

H「それは…かっこ悪いから(笑)。205と同じドアを使って、足回りも、そんな変わらない。だったらわざわざかっこ悪い車買わないでしょ! 205は、WRCっていう世界のラリーで勝った車のベース車。でも309は何にも勝ってないし、形は悪いし‥っていうとただのかわいそうな奴なんですけど、乗った人によると、205よりコーナーリングも良くて、全然良いよね!ってなるんですよ」

確かに、後ろ姿も独特ですよね…(笑)

H「変な構造でね、これリアゲ―トっていうんだけど、フレームが無くて、ガラスで鉄をくっ付けてるんです。コストダウンのためとは言え、こういうのは当時も他になかったですよ。フランスって変なとこ世界一だと思っているから、こういう変わったことを1番最初にやってみるんですよ。でも精度が出てないからしょっちゅうダメになる(笑)」

以前別のお店で伺ったシトロエンもそうだったんですけど、フランス車って凄い独創的なんですね。

H「そうそう、もう国民性みたいなもんですよ。だって、飛行機はコンコルドが1番早いでしょ、電車はだったらTGV、ルマンの最高速度の記録は、405キロでプジョーのマシンなんですよ。その後危ないから、コース改修がされたので、それ以降破られてないんです。
なんでも1番じゃないといけない、その国民性というか、マインドが表れていますよね」

フランス恐るべしですね(笑)。ここでひとつお聞きしたいのが、原工房さんで、あえてプジョーの新車を選ばない理由って、何でしょうか?

H「僕は、物としては素直に車も新しいのがいいと思いますよ。でも、プジョーっていう車に惚れたんだったら、古い方をおすすめするんです。昔のプジョーの代名詞で、“猫足”って言うんですけど、猫のようにしなやかな走りで、コーナーではピタッと張り付くように気持ちよく曲がるんです。これが今のプジョーには無くなってしまったんです。古い車を乗らないと分からないけど、新しい物からちょっとずつ古いのに乗っていくと、“ああこうなってたんだ!”ってなって、どんどん楽しさに気づいていけるんです」

そうなんですね! では最後に、このAUTOMOBILE COUNCILについての想いを聞かせてください。

H「これだけ日本の自動車産業は大きいのに、こういう文化的なイベントをなぜやってなかったんだろう、と思います。フランスのレトロモービルなんて70年やっているんですから。
これがもし10年早くやっていれば、もっとみんなが車を大切にして遺していったかもしれない。やっぱり技術はあるし、直そうと思えばまだまだなんとかなる。だからこそ、こういうイベントをきっかけとして、ヘリテージカーを残しやすい環境を作りたいですね」

Photograph:Taku Amano
Edit & interview::Tuna
Text:Chihiro Watanabe

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原工房

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