「一瞬にして世の中を変えていく快感ですね」
ジョルジェット・ジウジアーロと働く悦びを、イタル・デザインの共同経営者だった宮川秀之さんはこう語った。
実際ジウジアーロは若き天才として瞬く間に頭角をあらわした。ベルトーネ、ギアという伝統あるカロッツェリアのチーフデザイナーを歴任後、独立。イタルデザインを創設してからも快進撃は止まらなかった。いやむしろその勢いを倍加させたといった方が正しい。
VWゴルフ、アルファスッド、ランチア・デルタ、フィアット・パンダ‥。彼の作品はどれも新鮮で、街の風景、世界のデザイン・トレンドを一変、いや一新させるものばかりだった。
初代アルファ・ジュリアやマセラティ・ギブリ等、スポーツカーの傑作も数多く生み出している。117クーペやルーチェ等、日本の名車をたくさん手がけ、デザインレベルを世界標準に押し上げてくれた功績も大きい。恐らくAUTOMOBILE COUNCIL会場にも、彼の作品が多く並ぶはずだ。
そんな彼の休日の過ごし方がトライアルバイクに乗ること。御年78歳になった今も、5時間は山を降りてこないというから驚く。
あれは美しいショーカー、ブレラがデビューした少し後だったから12年ほど前のこと。インタビューで訪れた僕を「いや3日前じゃなくてよかったよ」と語りながら出迎えてくれた時に浮かべた、はにかんだような笑顔が忘れられない。森の中でライディング中、立木に顔面を強打、前歯数本を折り、義歯を入れたばかりだというのだ。
マエストロは今も現役。
「EVのデザインがしたいんだ」
2月に囲んだランチの席で熱く語る彼の顔は、数年前とまったく同じように輝いていた。世の中を変える気概に満ちている。リビング・レジェンドという表現は彼にこそ相応しい。