「20世紀自動車文化の継承。走り続けるWAKUI MUSEUM」

憧れのヘリテージカー。ビギナーが、専門家に指南してもらう新企画です。それぞれのクルマの歴史や他にはない特徴などにもお答え。

七回目となる今回は、WAKUI MUSEUMの涌井さんに、クラシックカーを通して、車を作る技術や志の高さを持って、〝文化を継承する〟ことの真髄をお聞きしました。



今回、ヘリテージカー・ビギナーズと言いまして、主に若い世代の人達に魅力やかっこよさを伝えるべく、皆さんにお話を伺っています。まず最初に、WAKUI MUSEUMさんは、どのような車を扱っているのでしょうか?

涌井氏(以下W)「WAKUI MUSEUMは、ロールスロイスとベントレーのクラシックカーを、文字通りミュージアムとして皆さんに見ていただくという目的でやっております。代表するのは白洲次郎氏のベントレーとか、吉田茂氏のロールスロイスとか、それから、ベントレーでは世界一古いものや、ルマンで優勝したものまで。世界中どこへ行ってもなかなか見れないようなコレクションを始めたことがミュージアムをスタートさせたきっかけです」

コレクションを始めたきっかけはなんですか?

W「今から30年程前に始めたんですが、それまで僕は大手時計会社のマーケティングを担当していまして、その時ブランドはなんたるかを勉強していたのですが、たまたま『ロールスロイス』は何故こんなにブランドを確立しているのかという興味が深まっていったんです。でも今から20、30年前っていうのは海外にロールスロイスを仕入れに行くと『日本には売りたくない』って。あっちの人達にとっては日本に車がいくとどこにいったか分からなくなるからと言うんです。それが凄くカルチャーショックで。やはり日本にも世界に認められるクラシックカーの文化を作りたいと思い立って、一気にコレクションを始めましたね。その内に自分のコレクションをミュージアムにしようと思うようになりました」

コレクションが発展して、ミュージアムになっていったんですね。

W「そう。でもそれをやっていくうちに一番大事なのは、レストアするっていう技術がないと継承もできない、となってレストアも始めたんです。今日ここで訴えてるのは、うちのビスポークっていうレストア方法。シャドーというのがロールスロイスの歴史の中で一番売れた車ですが、今はあまり価値を認められていない。シャドーって車が何故爆発的に売れたかっていうのは結局よく動くし、乗りやすいからなんです。グラフィックカーの地位を確立しつつ、実際に良く乗ってもらえる車。でも今はもう古くなっていますから、その価値を復活させるために丁寧なレストアが必要なんです」

その、ビスポークによるレストアとはどのようなものでしょうか?

W「ビスポークっていうのは、お客さんと話をしながら仕立てていくっていう方法なんですが、例えば内装とか、あそこに13頭分の牛の皮が置いてあるんですけど、あれで一台分。車1台であれだけ使ってるんですよ。エルメス行って、カラー見本借りてきて、それを参考にしつつ染めて。こっちのボディに関してはアルミを叩いて作り始めたばかりの状態です」

次の世代とか時代を超えて継承していきたいという思いは、それだけこの車に惚れ込んでいるからでしょうか?

W「そうですね。ブランドを学べば学ぶほど、ロールスロイスというものがやっぱり世界一のブランドだと。ヴィトンやエルメスなんかは150年、200年の歴史があるのに、車の歴史はまだ100年くらい。でもその短い間にロールスロイスっていうブランドが、これだけのブランドになったってことは、やっぱりそれをずっと求め続けた賜物ですよね。その最大の原動力は、やっぱりロイスっていう“人”ですよね。ブランドは人の志から産まれるものですから」

なるほど。ロイスさんはどんな方だったのでしょうか?

W「このね“正しくなされしもの、ささやかなりしとも、すべて気高し”という言葉がロイスの社訓なんですよ。ロールスロイスは不良品が出来ても、門番が外に出すのを許さなかったっていう逸話があるんです。それがどういうことかっていうと、門番っていうのは会社の中で一番関係ない部門なんだけれども、そういう人間にまでロイスの志が浸透してたって事なんですね。だからウチも、ウチの考え方を社員にくどいように伝えて、全員がそういう想いを持たないと、ブランドも育たないと思っています」

文化を後世に残そうっていうのは、物だけでなく人の想いや、志を残していきたいっていう事なんですね。

W「そうですね。その志と人間の想いと、それとやっぱりセンスが必要なんです。今、電子化と自動運転化が進む中でドイツは2030年、イギリスとフランスは2040年にガソリンエンジンは辞めるって言ってる訳ですよ。元々蒸気とか石炭とか、様々な動力が百年前からあって、その中からガソリンエンジンがここまで普及して、終わりを迎えようとしている。今まさに時代が変わろうとしている訳です。これから20世紀の文化遺産となっていくもの達を、どうやって守っていくか。今メーカーも課題としていると思うのですが、そういう中でウチははただ直して売る中古屋さんとしてではなく、メーカーと同じ志のもとに、車を作る技術を持って文化遺産を継承するということをやっていこうと。一つの方向性とブランド化。その為にこのAUTOMOBILE COUNCILのような、車好きが作る、車の文化のためのイベントを通して、こういう志を持っていることを社員やお客様、皆さんに伝えていきたい。そのうえで世界を目指して、初めてブランド化ができると確信しています。そういう方向性をこの場でアピールして、日本にもこういう会社があるということを、少しでも知って頂ければ」

それでは、これからの未来を担う、今の若い人達に伝えたいことはありますか?

W「まずは若い人たちにこういう車に興味を持っていただく。それで乗ってもらって、20世紀のガソリンエンジンはこういう物だったんだと分かってもらう。でも、車っていうのは動くのが基本、古いから動かないは通じない。そして、彼らが乗っても不自由を感じない車。利便性だけを取ったらきっと電気自動車に負けてしまう、けど楽しさやカッコよさとか、そういうのも併せ持ちながら、機能的である…僕にとってはそれがシャドーという車。それを昇華させていくというのが狙いなんですよね。

実は、僕埼玉県加須市の観光大使をしていて、学校で課外授業などもやっているのですが、学校に行く時にシャドーを持って行って、子ども達を乗せてあげる。小さい時にこんなの乗ったなっていうインパクトは、多分大きくなっても一生忘れないと思うんですよね。そういう所から若い人に継承していける架け橋を作れればと思っています。

それも含めて、若い人がこれからクラシックカーや自動車文化に興味を持っていただくのに少しでもウチが貢献できればいいですね。その上で、興味が湧いて欲しくなった時に、若い人達が乗れるクラシックカーを残していくというのも、使命だと思っています」

最後になりますが、このAUTOMOBILE COUNCILへの想いをお聞かせください。

W「こういうイベントが出来たこと自体が素晴らしいと思います。モーターショーみたいなのはありますけど、こういう自動車の文化にフォーカスしたイベントは日本には無かったですから。ウチの志なんかと、ピッタリ。そういう唯一のイベントだと思いますね。
今年を見ると去年よりもコンセプトが浸透してきています。これが今後日本を代表するクラシックカーのイベントになるだろうと思いますし、なって欲しいとも思います。また同時に、WAKUI MUSEUMっていうブースがやっぱし必要なブースになってくれれば良いなと思っています。

僕も71歳なんで、残り少ない時間を出来るだけ車文化の継承っていう、この時代に1番必要な事に捧げたい。あと何年持つか分からないですけど、時間が少ないっていう考えは色んなことを早くやらなきゃっていう気持ちを起こすので。引退してのんびりって気持ちは全くないですよ、最後まで現役ですね。」

Photograph:Taku Amano
Edit & interview::Tuna
Text:Chihiro Watanabe

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WAKUI MUSEUM

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