「“アミ”(友達)と始めるシトロエン」
憧れのヘリテージカー。実際購入するにあたり、選び方や知っておきたいことを、専門家に指南してもらう新企画。それぞれのクルマの歴史や他にはない特徴などとともに、玄人が唸る希少なクルマも教えてもらいました。
第1回目は「アウトニーズ」。シトロエンの専門店として、歴代のバラエティーに富んだシトロエンがずらり!
アウトニーズさんはどのような車を扱ってますか?
二井氏(以下N)「シトロエン専門です。フランスの車ですね。一般的な大衆車として愛された車で、大衆車ですが独特の足回りとか独特の技術で作られています。有名なのはサスペンションのハイドロニューマチックですね」
それはどういうものですか?
N「金属性のバネを持たない、オイルとガスと空気でのリアスサスシリンダーだけで衝撃を和らげるものです。これはシトロエンのDSで採用されました。以降シトロエンならではの技術となっています。地面からの衝撃をかなり和らげてくれて、乗り心地は抜群です。非常に疲労を軽減させてくれて、疲れにくい。ロングドライブにも最適です」
特殊な技術なんですね?
N「はい。他の車の足回りと比べて根本的に構造が違います。なので、専門のメカニックが必要なんです」
その技術はなぜシトロエンで生まれたのでしょうか?
N「シトロエンのスタートは戦前です。当時、ユーザーの人気はもちろんですが、エンジニア関係の方々からも非常に評判が良かったメーカー。つまり、車を作る側の人が惚れ込んで『ここのメーカーで仕事がしたい!』という人達ばかりでした。結果、各地の腕利きのメーカーの人間が集まったことで、この技術を生み出したんだと思います」
エンジニアが憧れだった理由は何でしょうか?
N「好きなことさせてくれるというか。根本にやらさせてくれる」
デザインもカッコイイですよね。
N「デザイン面はイタリア人のデザイナーが担当していました。この特有のデザインは、技術者だけではなくデザイナーもヨーロッパ選りすぐりの人材が集まって生まれた賜物なんですよ。」
なるほど。それではアウトニーズさんではシトロエンの中でも何年代の車を中心に扱ってるのでしょうか?
N「1960年~70年ぐらいです。その当時もシトロエンは、ファミリーに向けた大衆車を作っていました。ただ、大衆車だからといって質を落とすのではなく、高級車に対抗できるような技術とこだわりがありました。シトロエンのGSなど安価な車にもハイドロニューマチックを備えていて。一旦エンジンかけて乗り込んで、車高が浮いたらどこにでも走っていける、そんな車です」
フランスでは普通にみんなが乗ってる車ってことですね。
N「そうです! だから、特異な機構を持った車を大量生産して、それはフランス国民が受け入れたのは凄いことだと思います」
では、これからクラシックなシトロエンを買おうと思うビギナーにオススメの車種はどれでしょうか?
N「まずは、お客様が1番ピンとくるものを選んで欲しいです。それが壊れるか壊れないかは気にせず…そこはうちのメカニックに任せてください。夢を掴みましょう! 夢を諦めて、2番手、3番手を選んでしまっても、それは逆に最終的な夢を掴むことの遠回りになりますから。例えば、女の子とつき合うのに、気になる子が何人かいたとして、じゃあ3番目にしようかとか4番目にしようかなんてものすごく失礼なことですよね? 」
なるほど! ただ、金銭的な問題などもあると思うのですが…
N「それでいうなら、僕はAmi 8、通称アミハチをオススメします。フランス語で友達という意味ですね。1970年代のもので、その当時のエコカーの扱いでした。エンジンが小さくてボディーが大きくて、大人4人乗って荷物も満載できるのも魅力です」 」
これもハイドロですか?
N「これはハイドロではないです。ハイドロを作っているメーカーのバネサスの車。だからハイドロに近いような乗り心地を、味わえます」
ではデザインの魅力はどこでしょうか?
N「この顔なんですけども、ストンとくぼんでいます。なるべくこのヘッドライトの部分は残すようにしながら、空力が良くなるようなデザインになっています。この車自体が602ccでパワーが無いのですが、僕の主観で言いますと、高速で走っても結構空力が良いので、80キロほど出しても無理せず走れる感覚なんですよね」
空力という機能性から生まれた表情なんですね。
N「ファニーフェイスですね。今の車は顔怒っている。ムッチャ怒ってますよね。近づいてやったらどついてやろうか!みたいな(笑)。これは『アミ』、つまり友達ということですから、本当にフレンドリーなデザインです。人間性が出てますよね」
ヘリテージカーだと故障も気になりますがいかがでしょうか?
N「簡素な作りなので故障は少ない方ですね。なので、クーラーは付いてないです(笑)」
壊れた場合、部品とかはどうしたら良いですか?
N「車自体の作りが簡単ですし、オリジナルでなくても他の車から流用や応用が効いてくれますから、心配ないですよ。また万が一の時でも、うちの場合ロードサービスをご利用させていただいて、遠方でもお伺いさせていただきます」
ちなみに…お値段をお聞きしてもよろしいでしょうか?
N「215万です」
次は、初心者のくくりを外して、ずばり魅力的な車はどちらになりますか?
N「シトロエンSMですね。」
どのような車になるんですか。
N「これは、70年代の車で。当時のシトロエンは好調で、イタリアのマセラティーと提携していたんです。これを活かしたいシトロエンは、スポーツカー部門にも乗り込むようになりました。ただ、スポーツカーと言っても、そこはシトロエンの作る車。野心やこだわりが詰まってる、そんな車です」
これもまた独特なデザインですね。
N「そう。宇宙船みたい。横からのシルエットが綺麗でしょう。エンジンはマセラティ製の2700ccV6を積んでいて、大きいエンジンだから、置き方にも工夫があって、重いエンジンをなるべく車の中心近くに置く。いわゆるフロントミドシップというものですね」
お値段はどれくらいでしょうか?
N「690万です。なかなか数も少なく貴重なんです。だから、気に入って値段が合って、在庫があったら買うべし!今は非常に高騰してまして、うちも高騰してるので今年いっぱいで終わりかな、とは思ってるんです」
では、現行の車に対して、機能的にもあらゆる面でヘリテージカーが衰えるところはあると思うんですけども、それでもヘリテージカーが良いという魅力とはなんでしょうか?
N「僕自身が思うのはよくまぁ、時計とか色々なものでその時代をイメージしたり、彷彿させたりするんですけれども、車というものは空間自体がその時代から持ってきたものなので、その中に入ってしまえばその時代にワープできるじゃないですか。匂いや雰囲気とか、五感を通してものすごく感じれるというか、まるでタイムマシンに乗ったようなイメージ。例えば時計とかでイメージするよりも、車なら中に乗れて、実際に走れる訳で。その時代をそのまま感じる事ができる」
N「特に、シトロエンの車は特別スポーツカーという訳ではないですから。その当時から、ハイドロ独特の優雅な乗り心地とか、雰囲気とか、そういったものを楽しむものなんですね。だからこそ、現代でもそれをそのまま味わうことができる。古いから、悪い物ももちろんあるんです。その中でも、古くても良い物を正確に見定めるスキルと、センスが大切です。でも、一番大切なのはヘリテージを味わいたいという心意気。それさえあれば、誰でも楽しめる世界ですね」
Photograph:Taku Amano
Edit & interview::Tuna
Text:Chihiro Watanabe
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