「幼少期にカッコイイ車に憧れて、ずっと好きで今に至っただけ。つまり進歩がないんですね(笑)」

愛くるしい表情の「FIAT MORETTI 66年式」で颯爽と走る太田さん。幼稚園時代に車を好きになって以来、ずっと虜に。お仕事はポルシェとメルセデス・ベンツにて技術や経営を経験された。車だけではなく、パーツやメカニック、ミニカーに至るまで、自分なりのこだわりがある。その熱い想いについて伺ってみました。

まず車に興味をもったのはいつ頃でしょうか?

「太田さん(以下O)「生まれたときから(笑)。男の子って教えなくても乗り物が好きな所があると思いますが、僕もそれが好きになった原因だと思います。うちは親がこだわった車に乗っていたわけではないので。不思議といえば不思議ですね。きっかけとして認識しているのは、幼稚園の時の病気になったんです。2週間くらい家で寝込んでいたのですが、そんな時に父が車の本を買ってきてくれたんです。大人向けの年に1回出ていた『自動車のアルバム』です。やることがないのでしょうがないから見ていたら、そこに載っている車の名前を全部覚えてしまったんです(笑)。幼稚園ながらカッコイイなあと。当時はまだ幼稚園生はカタカナを読めない時代なので車の名前が読めないんです…でも知りたいから母を捕まえて教えてもらって。そのおかげでカタカナは幼稚園で覚えました。それは1957年の本。ボロボロになっていますが、今でもまだ持っています」

なるほど。当時、特にカッコイイと思われた車は何でしたか?

O「はっきり覚えています。ランチア、アルファロメオ、フェラーリ、マセラッティ。デザイン的なものですね、当時スペックなんてわからないじゃないですか。漢字もわからないですし、解説も読めないので、情報は形だけ。それで好きなもの…ほとんどはイタリアの車でしたね」

メカニズムについてこだわりがあるとお聞きしております。興味をもったのはいつ頃でしょうか?

O「子供の頃から、機械をいじるのは好きでした。中学生くらいになって、外観デザインのみならず、エンジンだとか車の中身にも興味をもって。高校生になってオートバイに乗り始めてから、乗るだけじゃなく、バラしたりして「なんでこういう構造になっているんだろう」とメカニズムに興味をもちはじめて。僕らの世代はバイクから入る人が多くて、お金がないのでポンコツを買ってくるんです。当時、解体屋さんから本体が500円~といった感じ。当然どこか壊れてたりするんです。それで似たようなものを買ってきて2台を1台にするとか。みんなでワイワイやって楽しかったですね」

お仕事も車関連だとお聞きしております。

O「はい、機械系の理系大学を卒業して、初めは当時ポルシェを扱っていた三和自動車に入社し、メカニックをやっていました。それから技術系の事務やメーカーとのやりとり、技術のトレーニングなど。その後、メルセデスベンツが日本支社を作る時にそちらに移って、3年前の定年までずっとそこで働いていました。メルセデスでは販売店で修理をするサービス部門があり、そこの経営指導をやっておりました」

車好きがこうじて車メーカーに入った感じでしょうか?

O「そうですね、趣味と仕事が一緒なのはどうかとも思いますが(笑)。ポルシェにしたのは、大企業の車メーカーより、車の設計の全体を見られるからです。例えば、ペダルだけ、など部分だけだと嫌かなあと思って。元々はデザイナーになりたくて、学生時代は授業中暇があればノートに車のデザインを落書きしたりしていたのですが…ただ全く絵心がない(笑)。描きたいのに思うように描けないんですよ。それで諦めてこっちの道に進みました」

それで定年されて今乗られている愛車が「FIAT MORETTI 66年式」ですね。

O「はい。1年くらい前に購入しました。’60sの『フィアット500』のシャシーとエンジンだけを使い、小さいメーカーが作った違うボディーを乗せたものです。アバルトをはじめ当時はこういうものが流行っていました。この車は、はっきりとはわからないですが、一説によると世界で50台と聞いています」

ハンドルもカッコイイですね。

O「実は車より先にこのハンドルを持っていたんです。これはネットオークションで見つけたのですが、一時期ハンドルを集めるのにハマっていて。これは、もともとフィアット用なんですが、アバルトなんかにオプションでついていたものです。’60s中期以降のヘリテージカーはアダプター的な役割を果たすボスを購入してハンドルを変えられますが、この車のように’60s初期までは、専用のハンドルが用意されていました。このハンドルもそれ。なので、このハンドルを持っていて、いつかこれがハマる車に乗りたいと思っていたんです。木製でボロボロなので自分でレストアして。でもその行為自体が好きなんですよね。ハンドルは多い時で20個くらい、今は15個くらい持っています」

こちらはハンドルコレクションの一部。特に思い入れがあるのはどれでしょうか?

O「どれも好きなんですが、右上のは僕が前に乗っていたポルシェに使っていたものです」

前はポルシェをお持ちだったんですね。これまでどのくらいの車に乗っこられたんですか?

O「うーん、いっぱい(笑)。でも20台くらいですかね。本当はもっと乗りたかったんです。知識があっても実際に乗ってみないとその良さはわからないじゃないですか。乗ってはじめて判断できるんで。車に乗り始めた時はすぐ乗り換えていました。1台目は『フォード ムスタング』。これは隣の家の人が乗っていたんです。よく乗せてもらっていて、簡単なドライブなどですね。その人が車乗り換えるっていうんで「いる?」って言われて「いる!」って(笑)。格安で譲ってもらいました。そこからどんどん乗り換えたんですが、32歳の時『ポルシェ 911』を買ったんです。それが気に入ってしまって、32年間のっちゃったんです。お金があって、場所があれば数台持ちできますが、そんな環境ではないので、他に買うにはポルシェを手放さなければならないんです。なら、ポルシェがいいと。結局32年間乗ってしまったんです。それで定年を迎え、残りの人生を考えた時に他の車に乗ってみようと。それで思い切ってお別れしました。MGをつなぎで買って…MGにはかわいそうですが…そのあと今の車です」

そこからモレッティにされた理由は何でしょうか?

O「モレッティって凄くマイナーな車なんです。車好きの人でも半分は「あー」って、残りの半分は「何それ?」っていう。日本にもそんなにないですからね。初めはアルファロメオかランチアの1300ccくらいがいいなと思っていたんです。それで『ガレーヂ伊太利屋』さんにランチアがあったので、それを見に行ったらモレッティもあって。僕は雑誌で知っていたのですが、実際に見たら一目惚れ。ただ500ccなんで走りはかなりのんびりしているんですが(笑)。購入はちょっと、保留していたんですが、1ヶ月くらいずっと売れずに置いてあって、そしたら段々と気になってきて…それで決めました」

モレッティでこだわっている部分はどこでしょうか?

O「まだ1年くらいなのであまり手を加えてないのですが、タイヤとホイールを変えました。ホイールは1960sアバルトのレース用ホイールのレプリカです。今作っているものなので材質も違って綺麗なんですが、たまたま手に入ったので。あとはさっきのハンドル。少しずつ乗りやすいように自分でやっていこうと思っています。次はバンパーを外そうかなと考えています」

メーターも集めていらっしゃるんですね?

O「車好きって時計好きが多いんですよ、男ってだいたいそうじゃないですか、時計とかカメラとか車とか機械系が好き。私もどっぷり(笑)。メーターも時計と共通したところがあって好きなんですよね。左下の白いやつは車用の時計です。昔のもので手巻きです。メーターは20個くらい持ってますね。デザインで気に入ったものを集めています。オートバイも好きなので、そっちに使ったりもします」

乗っていてぐっとくる部分は?

O「とにかく楽しいですね。500ccで力ないですから。今の車みたいにオートマじゃないし、エンジンも大きくないので、早く走らせるにはそれなりにコツがいりますが、それも楽しいです。ただ、狭い道は問題ないのですが、大きな道路なんかは特に走り出しはミラーばっかりみています。他の車より遅いんで走り出しは必死です(笑)」

初めに見た時にサイズ感が小さくて可愛いと思いました。

O「子供たちと年配の方に人気があって、子犬を見るような目で見てきます(笑)。ポルシェの時は声かけられることはなかったんですが、モレッティだと「あ、可愛いですね!」って。埼玉の方にガレージがあってそこに車やバイクを置いていますが、そこでいじったりしているとたいてい声をかけられます。ガレージの道の並びに幼稚園があって…ぞろぞろお散歩してくるんです。そうするとみんなが「わー!!」って手をふってきて(笑)。近所の子なんかでじーっと見てくる子とか。乗っけてあげたりすると喜びます」

では、今の車に対して不便だけど愛しているところは?

O「狭い、暑い、うるさい(笑)。ポルシェの時も古いやつだったのでクーラーついておらず、うちの奥さん、あまり乗りたがらなかったですね(笑)」

ミニカーも沢山お持ちですね?

O「10歳くらいから集めているので、ミニカー歴は50数年(笑)。今は沢山買わないですね、こんな小さくても沢山あると置き場に困るんです。前は沢山買ってましたがきりがないので買う車種を絞ろうと。まず自分が乗った車です。あとはフェラーリとポルシェの好きなものだけ。でも、最近は緩んできてかっこいいなと思うとつい買っちゃったりするんですが…」

テーブルにディスプレーしているのは良いアイデアですね。

O「気分によって置き換えています。このアルファロメオは幼稚園の頃からの憧れの車ですね。実車が欲しくて仕方ないんですが、人気で高価なのでなかなか手が出ない」

車やバイク系ファッションや小物を取り扱う『モトーリモーダ』で働いていらっしゃったと聞いています。

O「はい、先日まで。ファッションは『VAN』が好きなんです。ヘリテージカーに乗る時はトラッド、IVY系が多いですね。昔、中学、高校で流行ってましたから、それを引きずっている感じですかね。全部当時のものをそのまま好きです。気をつけているのは〝The バイク〟みたいなファッションあると思いますがいかにもってのは嫌かなと」

では最後に太田さんにとってのヘリテージカーとは何でしょうか?

O「いやー、そんな大げさなことはなく、単なる車好きがそのまま大人になっただけです。結局、その枠からはみ出せず、ずっとその中にいるという。車好きの人でも新車が出たらそっちに乗り換える方もいらっしゃいますが、僕は今でいうヘリテージカーがずっと好きだというだけの話。つまり進歩がないんですよ(笑)。車業界にいましたから、仕事上はやはり最新のものを扱って最先端の技術も勉強していましたが、凄いなと思っても欲しいなとは思わなかったんです。仕事で会社の新車に乗っていたので、プライベートで買ってまではいらないなと。だったら古い車の方がいいなと。今の車は便利ですし、そこはもちろん認めますが、個人的にはそこまで便利さは必要じゃないし。だって、ミラーがかっこよく自動で折りたためたりしなくてもいいじゃないですか(笑)」

Edit & Interview:TUNA