パリの街をクラシックカーが横断する日

「パリは美術館」….パリの街自体が芸術作品だとよく言われるが、さらにその美しい景観に彩りを与えるこんなイベントが年に2回行われるのでご紹介したい。それは「パリの街をクラシックカーが横断する」といったものだが、いったいどんなイベントなのだろうか? 想像を絶する出来事だ。
発起人は『Vincennes en Anciennes』。フランス最大とも言えるマルチブランドのクラシックカー・クラブだ。Vincennes(ヴァンセンヌ)といえば、パリ南東にあるヴァンセンヌの森で有名だが、集合場所はそこに位置するヴァンセンヌ城前の広場。ここは元々、毎週第一日曜日にクラブのメンバーが愛車とともに一堂に介するといったイベントを長年やっており、それはパリ在住の人もいれば、郊外から、また地方からと様々なクラシックカーラバーズが集い、品評会を行う場所だった。そのうちに「パリの街を走るのはどうかい」とシャンゼリゼ大通りなどを走る人たちが出て来て、それが「みんなで集まって走る」という話しになったと聞く。
今回17回目を迎えるTraversée de Paris(パリを横断)。参加者の70%はクラブのメンバーだが、そこにMusée RATP(パリ交通公団博物館)なども参加し、招待車も含め、クラシックカー、トラクター、バス、バイク、スクーター、自転車に至るその数は700台〜800台ともいわれる。参加者は定められたコースを走るが、当然突っ走る車、出遅れる車、道をそらす、カフェに立ち寄るために道に駐車する車、などさまざま。まずはそのイベントの様子を28kmものコースとともにご覧ください。ちなみに1日のスケジュールは、8時頃出発で正午に戻り、そこから15:30まで出発地点にて展示会。暖かい夏の会では、ヴァンセンヌに戻ってからピクニックを楽しむそう。

2017年1月8日の朝8:00前。まだまだ暗いなか、方々からクラシックカーが集まる。遠方の場合、前日にパリに着いて宿泊する人もいるという。まずは登録をしてイベント参加者の印となるプレートをもらう。まだ暗いうちは、正直、そんな素晴らしい車かもわからないほどで、ただ次から次へとやってくる車の数に圧倒されるばかり。あたりが少し明るくなった8:00すぎにスタート。最初にスタートした車と最後にスタートした車の時差はどの程度だろうか…。

まずはモンマルトルを舞台に。ここまで来るとそろそろコーヒータイム。パリを象徴するようなテラスのあるカフェを背景に一段と美しい車はシトロエンのトラクシオン(40年代)。

イギリスのオースチン・ヒーレー。スポーツブランドとあり、スピード感があり、神秘性あるモデルだと言われる。座席は2つのみ。

背後にそびえる建物はパリを一望するサクレクール寺院。手前、フランスのミドルクラスのルノーのドーファン。こちらは60年代で奥のブルーは同じルノーのR8。70年代のドーファンの新モデルとされる。偶然にも2台揃っている。

メディアも多く集まる。AFP(フランス・プレス・エージェンシー)のカメラマン。ほかフランス・テレ、カナルプリュスなど7チャンネル、ル・パリジャン、ル・フィガロ、リベラシオンなど5つの新聞社、そして私たちオートモビルカウンシルの取材班が取材にかけつける。

重量感のあるイギリスのベントレー。60年代の珍しいスポーツ・ワゴン。

今回のプレート。付ける場所はそれぞれだが、一般的にはこのように…。

プジョーの403、ブレーク・ファミリアルは60年代。こちらはタクシーに使われたもので屋根には多くのトランクを載せられる仕様。

ここからはパリの中央に位置するコンコルド広場に集合。ここでパリを横断しなくとも、直接集まって車を披露する人も参加。コンコルド広場といえば、昔から日本車のコマーシャルのロケーションとしても多く使われた名所。こちらはイギリスのモーガン社のロードスター。30年代の3ホイーラー。オートバイ用のエンジンmotor-Guzziが備わっている珍しいもの。重さが400kgありスピードが出るうえ車体が全体的に低いのも特徴。

上写真の左はシトロエンのカミオネット(ミニトラック)。商売の運搬用などに使われたもので、なかなか愛らしい風貌。そして右がRATP、パリ交通公団の30〜70年代に使われたバス。昔のフランス映画に登場するこのバスは、乗り遅れてしまったために、後ろから飛び乗るというシーンを思い出させるが、実際、パリジャンたちも日常的にしていたとか。このイベントに車なしで参加するなら、これらRATPのバスに乗るというのも名案だ。日本からの参加も歓迎だそう!

40年代までは車にエンジンをかけるのはこのようにマニュアルだった。-Guzziが備わっている珍しいもの。重さが400kgありスピードが出るうえ車体が全体的に低いのも特徴。

シトロエンのトレフル。20年代。ラッパ式クラクションに注目。

こちらもモーガンのロードスター。40年代当時は若者のモード的な車だったと言われる。

ジャガーのMK10。ロールスロイスに対抗して作られたそうで、速さは同格。さらに、座り心地の良さ自慢。

アメリカは30年代のエクスカリバーのレプリカ。70年代に製造されたもの。

とにかくシンプルながらもデザイン性の高いこの真っ赤なスクーターに目を奪われる。実はクラシックカーのみのパリ横断と思いきや、このイベントに興味を抱いたクラシックバイクも参加するようになったとか…….。

ともにアメリカのシボレーのコルベット。白は62-64年のモデルで赤はそのあとの68年のモデル。


Classic Car Snap!

今回イベントに参加したフランスのクラシックラバーたち。こだわりの車とともに、特に目を引いた方々をスナップ!

No.1

名前 Romain Mantel (ロマン・マンテルさん)
年齢 34歳
職業 銀行でデータ処理
車種 MGB 1965年
気に入っているところ/オープンカーであるところ
あなたにとってクラシックカーとは?/パッション

No.2

名前 Paul La Tacon(ポール・ル・タコンさん)
年齢 68歳
職業 退職
車種 フォードA 1931年
気に入っているところ/オリジナリティのある色。模様が刻まれた小ガラスは30年代の流行。
あなたにとってクラシックカーとは?/見る人とともに喜びを分かち合うこと

No.3

名前 Cédric Lalanne(セドリック・ラランヌさん)& Astrid Lalanne(アストリッド・ラランヌさん)
年齢 26歳
職業 コンサルタント
車種 トライアンフ 60年代。「妻のお父さんの車なんです!」

No.4

名前 Jean-Jacques Chasseing(ジャン=ジャック・シャッサンさん)
年齢 71歳
職業 退職
車種 もともとEDF(フランス電力)の技術者だという彼は自動車に情熱を傾けるが、カッコいい車を買う手段もなく、フォルクスワーゲンのケースをドイツで購入し、自分自身で組み立てる。世界でたったひとつの彼のオリジナル車となる。1975年。マークもオリジナル。

No.5

名前 Jacques d’Andrea(ジャック・ダンドレアさん)
年齢 52歳
職業 今回のイベントをオーガナイズするフランス最大級のクラブ、Vincennes en Anciennnesのプレジデント(代表)
車種 フォードのエスコート 74年

No.6

名前 Stephan Zelger(ステファン・ゼルジェさん)
年齢 44歳
職業 クラシックカー&バイクの販売と修理会社
車種 フィアット500、 68年代

No.7

名前 Pierre Vittrant(ピエール・ヴィットランさん)
年齢 55歳
職業 日立の社員
車種 ワーゲンのSP、75年。フランスに2台しかない希少な車。ブラジルのサン・パウロで製造されたためにSPと名付けられた。


今回のコース

パリ横断した今回のイベント。そのコースをご紹介。


今回のナビゲーター

「7年後にはクラシックカーになる」というクラシックカー・ジャーナリストのFred-auto(フレッド・オート)の愛車はBMWの320 ci(1999年)。

以下のサイトで今回の動画も見られる。

http://www.vehidex.com/Traversee_de_Paris_des_vehicules_de_collection_8_janvier_2017.html

photograph : Yasuhiro Yokota
text : Tomoko Yokoshima
edit : Takafumi Matsushita