60年代ルマンカーの凄みと美しさ

今年はテーマを「60年代ルマンカーの凄みと美しさ」と銘打って、2台が展示されます。1台は1966年のイソ・グリフォA3/C。そしてもう1台は1963年、初めてアルピーヌの名を冠してルマンデビューを果たしたレーシングスポーツのM63です。ヘリテージカー・ファン垂涎の2台がAUTOMOBILE COUNCIL 2020に登場。そのダイナミズムと緊張感溢れる美しさをご堪能ください。

イソ・グリフォA3/C

日本でも大ヒット作となったハリウッド映画「フォード vs フェラーリ(原題『Le Mans 66』)。その名の通りルマンの絶対的王者だったフェラーリに、大衆車メーカーでしかなかったフォードがレーシングカーを新開発し、これを勝利に導くまでのストーリーが綴られたものでした。伝統ある世界一過酷なレースで総合優勝を勝ち取ったフォードGTマークII (通称 GT40) と同じ華やかな舞台で、実はもう 1 台注目を浴びた存在が今回の主催者展示車両、イソ・グリフォA3Cです。

設計者はあのジウジアーロをして “天才” と言わしめたジョット・ビッザリーニ。彼はフロント・エンジンフェラーリ最後の究極のモデル、フェラーリ GTO の開発リーダーを務めた男でした。その彼がフェラーリを辞し、高級グランドツアラー、イソ・グリフォをベースに純粋な競技車両に仕上げたのが A3/C です。

末尾の C はコンペテション (もしくはイタリア語のコルサ) の頭文字。低いフロントに積むエンジンはシボレー・コーヴェット用プッシュロッドV8 5.3ℓをベースにハイチューンを施したものです。

7000 個というリベットを用いて形成された低く美しく、しかも戦闘的なボディは、設計者自らが製作を担当したカロッツェリア・ドローゴに出向き、つきっきりで仕上げたオリジナルに最も忠実な奇跡の個体。

わずか6台が製作されたに過ぎないワークスカーの1台です。

Alpine M63

アルピーヌといえばラリーのイメージが強いものの、創始者ジャン・レデレは サーキットレースにも情熱を燃やしていました。

A110 がデビューしたのと同じ 1963 年、初めてアルピーヌの名を冠したレーシングスポーツがルマンデビューを果たしたことが、何よりそれを雄弁に物語っています。それが M63 でした。

リアに積むエンジンはたったの 996cc 4 気筒。出力はわずか 95bhp に過ぎないのに、最高速は 240km/h に到達。マルセル・ユベールがデザインした空力ボディの賜物といえるでしょう。A110 との共通点はウインドスクリーンのみ。サルトサーキットの長いストレートと高速コーナーに完全に照準を合わせ、徹底的にエアロダイナミクスを磨いたボディの空気抵抗は、この時代にしては驚異的な 0.20 ~ 0.22 を実現しました。

今回オートモビル・カウンシルに展示されるシャシーナンバー 1701 はM63の1 号車。ルマン本戦でこそリタイヤを喫しましたが、テストデイでは同じエンジンを積むライバル、ルネ・ボネより 5 秒も速いラップタイムをマーク、ひと月後に行われたニュルブルクリンク 1000km でデビューウィンを飾った由緒正しき個体です。

FRP ボディによる軽量ライトウェイトの思想はまさしくアルピーヌそのもの。大排気量エンジンのパワーに頼らず、小排気量で効率の高さを限界まで追求する姿勢は、当時のフランス車ならではの特徴、美点と呼べるものです。