「車はその時作った人の考えを形にしているもの。癖やこだわりがあって、そこが面白い」

シャープな外装に高級感のあるディテール。今回ご紹介する『‘69年式 ランチア フルビア』は、幸村さんが昨年のオートモビルカウンシルで、そのクールさに惹かれて思わず購入した車です。この愛車に惹かれた理由から仕事への姿勢、そして生き方に至るまで、その精神を教えていただきました。

まずヘリテージカーに興味を持たれたきっかけを教えてください。

幸村さん(以下Y)「たまたま実家が車関係の仕事だったことや、車好きな友人が身近にいたりと、子供のころから輸入車には慣れ親しんでいました。20歳前後で免許をとってから、憧れの車が沢山ありまして…。例えば『ポルシェ914』だったり。ただ当時、お金もなかったので手が届かない存在でした。現在、数台車を所有しておりますが、私の場合は若い頃に憧れていた車に乗っている感じです」

これまで乗られた車で思い出深いものはありますか?

Y「若い頃になけなしのお金で買った『ハコスカ』とかですかね。今はとてつもない価格になっていますが(笑)。あとは『フェアレディーZ』とか。20歳前後ですね」

今回紹介してもらった『‘69年式 ランチア フルビア』は昨年のオートモビルカウンシルにて出展されていたガレージ伊太利屋さんで購入されたとお聞きしました。元々付き合いがあったのでしょうか?

Y「車好きなら知っている自動車屋さんですが、私は飲食店をやっておりまして、こちらの社長さんや友人がお店に来ていただいたりして。それで知り合いではありました。ですが、車関係での一番最初の付き合いは、これも古い車ですが『フィアット X19』がこちらで販売されていまして、これも憧れの車でしたので購入させていただきました。それからちょこちょこと出入りさせて頂いています」

なるほど。ではフルビアを購入することになった理由は何でしょうか?

Y「昨年のオートモビルカウンシルに伺ったのですが、どんな車があるんだろう?という意味で来場したのですが、まさか買う方向に進むとは(笑)。『非常に綺麗に仕上がっている車だなあ』と眺めていて。一台バリっとしたもの…シートからこのくらい仕上がっているものを持っててもいいのかなあと思い出して。ポンっと買えるわけではないのですが、乗ったことのない車ですし、これも出会いという感じで購入しました」

美しい仕上がりに魅了されたわけですね。特に外装で気に入っていらっしゃるところはどこでしょうか?

Y「細いラインですね。あとは色もそうですし、内装との対比もいいですね。いやーなかなか今ない感じです。気に入ったのはもうデザインの良さですね。車はその時代の工業デザインですし、その時作った人の考えを形にしているものだと思います。様々な個性の車があって、ずっと見ていても飽きないなっていう。人によってはそれは建築だったり絵画だったりするのでしょうけど。メーカーが各々のオリジナリティを保っていて、癖やこだわりがある。そこが面白いです」

では、内装で気に入っていらっしゃるところはどこでしょうか?

Y「まずヘッドレスのシートです。この年代のもにには多いと思いますが、最近なかなか少なくなってきましたしね。あとメーターのアナログな感じも好きです。今の時代から見ると高級感もありますね。当時は普通だったかもしれませんが」

元々、ランチアにはどのようなイメージをお持ちでしたか?

Y「ランチアは、これよりもうちょっと新しい車しか知らなかったのですが、ラリーなどで活躍している車というイメージでした。また、ヨーロッパの人たちは、これで山あいを走る感じ。向こうの人たちって今でも小さい車でバリバリ元気に走るでしょ? しかもみんなマニュアルで。これで昔の道が悪かった頃だったら…例えばモナコのモンテカルロとかそういうところを走っているのを想像するのも好きです」

ロマンティックですね。この車でやってみたいことはありますか?

Y「街中よりも小さな峠をゆっくりと。早く行けよって思われるかもしれないけれど(笑)。また、私は自宅の京都と東京を行き来しますが、一度ゆっくり時間をかけて京都に行くのもいいですね。ピクニックドライブ的な。今の車ほど早くはないけれど、その分味わう時間も長いのはいいですね」

今の車に比べて不便だけど愛しているところはありますか?

Y「古い車って乗って走り出すまでに儀式があって、それを楽しむというのもあるかもですね。今の車はボタンでポンって出発しますが、これを乗ろうと思ったら、心構えがあると思うんです。手間暇かける感じ。そこが逆にいいですね」

では若い世代の方でヘリテージカーに興味がある人々にコメントをお願いします。

Y「マニュアルの車にのっているとエンジンの構造などにも興味を持ってくると思いますが、そういうのも含めて車って本当にモータースポーツなんだなと思います。ただ人を移動させるだけのものじゃなくて。もちろん、移動するのに今の車よりも時間かかったりするんだけど…ちょっとぐらい不便なくらいが味わい深いというか。ヘリテージカーは『昔はこうだったんだ』とかそういう余韻にひたれるのも面白いんじゃないかな」

ではお仕事に関して伺いたいのですが、日本料理の「麻布幸村」をやっていらっしゃいます。どのようなお店でしょうか?

Y「ずっと京都で修行してきて東京の麻布十番でお店をやっています。京料理をベースにしつつ、自分が考えたものを料理として形にしています。子供の頃は板前になるとは思っていなかったですね。やっていくうちに憧れが強くなってきて、もうちょっと良いものを! と繰り返してきた感じです」

それは料理の技術的な成長でしょうか?

Y「技術だったり生き方だったり。僕らは自分が考えたものを形にします。初めは習ったことから始まりますが、その中で自分らしさや、幸村流とい うのを表現していきます。そこが大切で。車に例えるとポルシェはフェラーリの真似はしないと思うんです。車のデザインも料理と同じだと思うんです。ミッドシップのエンジン一つをとっても『俺のところはこうだ』っていう精神がヘリテージカーにはある。今の車はどれも同じという…」

自分らしさ。それはどのように作り上げていくのでしょうか?

Y「これが私が京都で教わったことなんですが、〝問答〟を繰り返すこと。それは、何かのデザインをみることで失ってしまうかもしれません。リサーチをした途端にやりたいことがなくなるみたいな。もちろん、世の中が求めるものに耳は傾けます。ただそれをどう消化して出していくかといいますか。きっと、真似事から始まるというのはできるようになるまで。できるようになってから自分ならどうするか。それが大切なものの考え方、生き方だと思っています。車もそうですが、真似たことで、自分は格下だと認めることになりますから。越えられない。僕もそういうところで生きています」

それは新しいものを生み出すということでしょうか?

Y「変わったことをする、というのではありません。あくまでスタンダード。ポルシェとかフォルクスワーゲンとかもそうですが、長い時間、同じ車は少しずつチェンジしていくんだけど、同じことをやり続けています。変わらないように変わっていくのは難しいことだと思うんです。一瞬にして形を変えるのは簡単なこと。毎回コロコロ変わっていくというのは本当の自分なのかと。車からもそれを感じとれますね」

なるほど。では料理を作るときに大切にしている感覚は何でしょうか?

Y「自分らしいのか、です。あまりに削ぎ落とした感じだと食べている方がつらいので、少しの遊びがあってもいいと思いますが、全体的にはそうですね。あと、僕の場合は、『京都に帰ってもこの料理を作るか』ですね。東京だからこの料理やってるのじゃなくて『明日京都に行っても同じ料理を同じ味で作るか』を大事にしているかな」

では最後に、料理人、日本料理屋として成し遂げたいこと何でしょうか?

Y「いつかは終わるので、終わった時に『ほんまいい店やったで』と言ってもらえたら。『ほんまもんになる!』とか若い頃は思っていましたが、今はそうガチガチではないですし。料理人として、一枚の良質なアルバムを聴いてもらったようなイメージで締めくくりたいです」

Photograph:Taku Amano
Interview:TUNA