「ヘリテージカーは、癒し。自分だけの空間と時間を大切にしています」

英国車『Austin Healey Sprite Mk-3』の65年式を愛車に持つ石井さん。ただ、よく見るとサイドにシルバーのラインが。「これはオーストラリア仕様なんです。オーストラリアが英国領だった時に、ノックダウン生産を少しだけしていました。そのモデルなんです」というレアもの。そしてディテールにも多くのこだわりが。その珍しい愛車について詳しく伺ってみました。

まずヘリテージカーにご興味を持たれたきっかけを教えてください。

石井氏(以下I)「10年ちょっと前ですね、子供が大きくなったのがきっかけです。子供が小さい頃は、僕もミニバンでキャンプとか行っていたんですね。でも子供が大きくなって一緒に出掛けなくなると、大きいミニバンはいらなくなるじゃないですか。それで、普通の車に変えようかって言った時に、じゃあ、予算の半分はファミリーカーを買って、半分は趣味の車を買おうと思ったわけです。そこで趣味の車は何を買おうかなと考えた時に、スポーツカーが欲しいなと。最初はヘリテージカーではなく現代のスポーツカーを探していたんです。でも探して行くうちに趣味の車なら実用性はいらないな、じゃあ古いオープンカーが欲しいなと思いまして。いわゆるヘリテージカーというよりは、オープンカーが欲しかったんです。それで最初はMGBを買いました。すごくいい車で、すごく楽しくて、そこでヘリテージカーの世界にハマってしまいました。2年くらい乗ってたんですが、でもいい車すぎて面白くなくて(笑)」

良い車すぎる?(笑)。それはどういう感覚なのでしょうか?

I「完成してるんですよね、壊れないですし。それで、もう少し味の濃いやつにしようと思ったんです。オースチンヒーレースプライトのMk-1という車がありますが、「カニ目」って呼ばれている目ん玉がくりくりっとした可愛いやつ。それを手に入れて、10年程乗っていました。すごく楽しくて、乗っていると本当にライトウェイトスポーツだというのを感じられるんです。キュッキュッキュッキュッ回るんですよ。すごく楽しくて。でも10年乗ると年もとってきたので、スポーツカーのガッツンガッツンとした乗り心地も結構辛くなってきて。で、もう少しラグジュアリーなものが欲しいなと」

なるほど、ラグジュアリーな車ですか。

I「はい。ただやっぱりライトウェイトスポーツは捨てがたかった。乗っていたMk-1から、Mk-2、Mk-3と車の年代も進んで行くと、若干洗練されてくるんです。サスペンションとかもだいぶ違ったりするんですね。それで、実はMk-3という車は自分と同じ年、生まれた年が一緒だと気がついて。じゃあ生まれた年が同じものにしよう、それで、次はMk-3にしようと決めました。とは言え、Mk-1は日本でも人気なのでたくさんあるんですが、Mk-3はなかなかなくて。Mk-3の赤、右ハンドル、これを条件にして探していたので、当分出てこないだろうなとのんびりしていたんです。でも、ちょっと探したら出てきてしまって。オーストラリアにあるよと(笑)」

あったけどオーストラリア…

I「そう。オーストラリアが英国領だった時に、オーストラリアで少しだけノックダウン生産をしていたモデルが出てきたと、すごいレアだよと。この車は横にラインが入ってるんですが、実はイギリス製のものには入ってなくてオーストラリア製だけラインが入ってるんですね。すごくレアなもので、じゃあ手に入れたいなと思ったんです。ただ、やっぱりオーストラリアにある車なんていきなり買えないと悩んでいました。僕はオースチンヒーレークラブというオーナーズクラブに入っていて、この車はクラブの会長が探してくれました。オースチンヒーレークラブは世界中にネットワークがあるんですけど、すぐ会長がオーストラリアのオースチンヒーレークラブの人に連絡を取ってくれたんです。そうしたら3日後に見に行ってくれて、写真を撮ってメッセージをくれたんですね。「これはすごくいい車だと、お前が買わないなら俺が買う」と言われて。えっ!じゃあ買います!!みたいな(笑)。なので当然、東京に来るまで現車は見てないですし、写真だけで買ったんです」

すごいですね(笑)。実際に乗ってみていかがでしょうか?

I「今、乗って4年目なんですが、Mk-1はすごくスポーティーでクイックなんですけども、Mk-3はエレガントで柔らかいですね、すごく洗練されています。Mk-1より5、6年後に設計された車なんですが、非常に洗練されていて乗り心地も良い、いい車ですね。見ずに買ったけれども大満足です」

なるほど。では外装で気に入っているところは?

I「そうですね、やはりオーストラリア仕様というところが気に入ってるポイントです。 見た目だったら横のラインが気に入っています。あとは普通はヒーターユニットがついているんですが、オーストラリアは暖かいからなのかついていないんです、これが珍しいですね。あとは、オースチンモーターカンパニーオーストラリアと入っているこのエンブレムも好きです」

では、内装のお気に入りは?

I「オリジナルにこだわっている訳ではないのですが、このハンドルは、たまたま状態の良いものが手に入ったので気に入っています。また、本当はこのシートは黒いのですが、ボディカラーとのコーディネートで赤く張り替えています。だいぶ派手ですけどね(笑)」

現行の車と比べて不便だけども愛しているという点はありますか?

I「不便というのは全て不便ですよね、でも、逆にそれがいい。エアコンもないし、カーステもついていないし、ウインドウも手で開けますし、なんなら屋根もない。でもやはり、車の素の楽しさ、素の魅力というのがすごくソリッドに出ていますよね。ヘリテージカーの魅力とは、車そのもの魅力が味わえることだと思います。」

この車乗っている時に一番ぐっとくるタイミングは?

I「ああ、それはやっぱりエンジンをまわした時ですね。コーナーをひゅっと曲がった時にもう気持ちいい(笑)。キュッと曲がるのが一番気持ちいいです。もちろん、箱根とかの峠道に行くのが一番楽しいですが、でも都内の交差点を曲がるだけでも気持ちいい。ライトウェイトスポーツを感じられる時が楽しいですね」

通常の車との感覚の違いというのは?

I「普通の車はゆっくり、ぐぐっとまわって行くと思うんですが、スプライトはキュッとまわって、踏めばクッと加速する。すごく小気味良い。屋根がない分視界も広いので、すごく気持ちいいです」

この車でどう遊ぶのが好きですか?

I「ヘリテージカーって、まず見て楽しいと思うんですね。見た目の優雅さや、アンティーク的な楽しみ。そして、乗って楽しい。あとはやはり、仲間が増える、友達が増えるんですよ。オースチンヒーレークラブの繋がりでこの車が手に入ったというのもありますしね。仲間達と一緒にツーリングとかドライブとかに行ったりするのは本当に楽しいです。春は富士山に行って、ミニサーキットを貸し切ってイベントをしたり、秋は長野の方の温泉に行ったり。30台くらいでみんなで行くんです」

なるほど。では今後こういう遊び方してみたいなという夢は?

I「クラブでも何人かいるんですが、海外のイベントに自分の車で出てみたいなと思っています。日本から運んで、この車で本国を走ってみたいなと思います」

では最後に、あなたにとってヘリテージカーとは?

I「癒しですね。仕事とか色々ある中でストレスが溜まってくると、ヘリテージカーに乗って走るだけでストレス解消になりますし、心が癒されます。基本的には一人で乗っているので、自分だけの邪魔されない時間に癒されます。実は今撮影しているこの場所は僕の癒しスポットなんですよ。いつも、スプライトに乗って来て、ここに停めて、芝生で缶コーヒーを1杯飲んで帰るんですけど、それがすごく癒しの時間なんです。空があって、海があって、飛行機が飛んでいて…。凄くここ癒されるんですよね。そういった時間が大切ですね」

Photograph:Taku Amano
Interview & Edit:TUNA
Text:Hina