“CLASSIC MEETS MODERN”から“FUTURE”へ

加藤さんが、関さんとAUTOMOBILE COUNCILを共同運営することになったのはどういう経緯があったのでしょうか。

加藤:関さんは小学校・中学校の2年先輩なんですよ。彼は大手の自動車メーカーに勤めて、私は26歳でカーグラフィック社に入りました。同じ自動車業界にいましたが、日本は生産大国でありながら、文化面では欧米に比べて遅れているなと感じていました。
製造と文化の両輪が揃わなければ、本当の自動車先進国にはなれない。そんな話を関さんとしたのが始まりです。

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関:加藤君は雑誌を通じて自動車文化を伝えて、私はメーカーの立場で新車の開発・製造販売をしてきたけど、ビジネスで余裕が無くて文化は二の次という感覚が強かったんですよ。AC立ち上げの企画書を持って加藤君に会って協力をお願いしました。
お互いが感じていた課題を解消するために、違う視点で一緒にやらないかという話をしました
。加藤君も「やりましょう」とすぐに応えてくれたんだよね。

加藤:私たちが作っているカーグラフィック誌は1962年創刊で、創刊当初から自動車文化の重要性を訴えてきましたが、雑誌だけでは限界があると感じていました。
そこでAUTOMOBILE COUNCILというイベントを通じて、日本全体に自動車文化を広めていければ良いなと。

加藤:海外に取材に行くと、日本にいたら気付かない危機感を覚えるんですよ。韓国や中国は目覚ましい成長を遂げていて、ヨーロッパでは古いものを大切にする文化が根付いています。
その中で日本車の存在感が相対的に薄れているのを感じていました。
だけど日本には80年から100年の自動車の歴史があって、他のアジア諸国にはない「お宝」が眠っている。
それを活かして自動車を文化として表現し、熟成させていくことが重要だと考えていました。

出典:AUTOMOBILECOUNCIL2024

日本の自動車メーカーがクルマの文化を発信していくために、どのような取り組みが必要だと思いますか?

加藤:日本の文化は「スクラップ・アンド・ビルド」。つまり、壊しては新しいものを作るスタイルが主流ですよね。自動車も4年ごとにモデルチェンジし、消費財として扱われてきました。
一方で、魅力的な自動車やブランドは明確なコアバリューを持っています。分かりやすい例として、ポルシェのリアエンジン。運動性能を考えると古いレイアウトですが、それが創業者のこだわりで今も守られていて、ポルシェ911はブランドの象徴として存在し続けています。
この基盤があるからこそ、サルーンやSUVを展開しても成功しているんです。日本のメーカーにもこうした「対価の価値」を発信してほしいと思いますね。

出典:Archive of AUTOMOBILE COUNCIL 2020

関:企業経営で言えば、ブランドや文化、コアコンピタンスを軸に経営していくってことですよね。一時的なヒット商品だけでは必ず立ち行かなくなる。
ACは日本の自動車文化を築き上げて継続的に発信していくことを目指しています。

加藤:ACは、クラシックカーと現代のモビリティを融合するテーマとして、最初は”CLASSIC MEETS MODERN”から始まりました。
その後、”FUTURE”という言葉を加えましたが、今や電気自動車や再生可能エネルギー車が主流になりつつあり、すでにその言葉すら必要ない状況です。ただ、こうした大転換期だからこそ各企業やブランドには明確なコアバリューが求められ
ています。
特にヨーロッパでは、その価値をヘリテージに求めることが多いですね。


「すべては来場者のために」―ACが提案するカーライフの楽しみ方

久保さんはどのタイミングからACに参加されたのですか?

久保:私はカーグラフィックの一員ですから、加藤さんからAC立ち上げの話を聞いてすぐに賛同して参加しました。

加藤:久保のポジションはまた大変なんですよ。イベントとしての信用性、媒体としての信用性を担保する役割が重要で、久保さんが多くの中古車ディーラーを開拓し、厳選した車を集めてくれたおかげです。
それがなければ怖くて運営できませんからね。私たちは売買に直接関わらず、利益を得る仕組みでもないので、ACの場では安心して文化を体験し、ヘリテージカーを購入できるプラットフォームを作ることが大切なんです。

久保:今振り返ると、初年度によくこれだけのディーラーが集まってくれたと思います。説明しても皆さん良く分からない。当時はまだ未知数のイベントでしたからね。

関:初めは「良いクルマを集めて、見てもらえたら楽しいよね」くらいの気持ちでしたよね。でもそのクルマが買えるとなると、もっと面白いんじゃないかということを考えて…。
2016年の第一回目の開催初日、最初の1台が売れた時はみんなで歓声を上げて喜んびました。確かロールスロイスだったかな。あの瞬間は忘れられないですね。

加藤:昔はヒストリックカーを買うことはかなり敷居が高かった。バブルの頃には偽物を本物として売る業者もいたし裁判沙汰になることも多かったから、特に初めての人には入りづらい世界でした。
ACではその敷居を下げようと、値段を明示するという画期的な取り組みを始めました。

業界的には価格を伏せるのが一般的だったのですよね。

関:そうなんです。そしてそれを変えていかない限り、業界全体がオープンでフェアにならないと強く思っていました。寿司屋さんのように時価やアスクプライスみたいな曖昧な価格設定は、買い手にとっては不安材料で、不信感に繋がります。
様々な反対もありましたが、1回目の開催からずっと一貫して値段を明示することを徹底しています。私のこだわりです。それは業界全体の信頼性を高めたいという思いが強いので。

久保:ヨーロッパのイベントではその場でクルマが買えるのが一般的で、この3人で視察でヨーロッパを訪れた時に思わず買ってしまいそうになったことがあったんです。その体験を日本でも再現したかったというのもありますよね。

出典:AUTOMOBILE COUNCIL 2024

久保:ACが成長するにつれて、有難いことに「ぜひ出展したい」という問い合わせも増えてきましたが、全てを受け入れるわけではなく信頼性を大切にして運営しています。
価格やクルマのクオリティ、接客全て確認してスクリーニングをして、基準をクリアしたディーラーさんだけに参加してもらっています。そのおかげで大きなトラブルは今のところありません。

出展社はイベントの回数を重ねて実績を積み上げたことで、徐々に増えていったのですか?

久保:そうですね。1回目の開催ができたことでそれをベースにセールスもやりやすくなりましたね。最初は「最低4台の出展枠」というルールもありましたが、小さいディーラーさんから「4台は難しい」って声が出てきて。
そこから何度も話し合い、小規模でも参加しやすい枠を作ったり、大きいディーラーさん向けには特別な出展メニューを用意したりして、それぞれ無理なく参加できるよう工夫しました。

ディーラーの皆さんは本当にこだわったクルマを出展されている印象があります。

久保:ACの会場は独特で、クルマと対話するような凛とした雰囲気を作っています。出展社やメーカーも自分たちの看板を背負って参加しているので、クルマをしっかり仕上げて持ち込むようになりました。
最近では
単なる展示や販売だけではなく、カーライフの楽しみ方を提案をする場として、出展者の方々も少しずつ取り組み方を変えていらっしゃいますね

出典:Archive of AUTOMOBILE COUNCIL 2023

クルマの最大の魅力は『乗り味』にある

若い世代へのアプローチや自動車文化の継承についてはどのように考えていますか?

加藤:若い世代に何か継承したり教える必要はないと思ってます。新しいムーブメントはすでに彼ら自身の中で生まれているし、「クルマを好きになれ!」なんて強要する必要もありませんから(笑)。
彼らは彼らなりのスタンスで自動車との距離を縮めています。もしACやカーグラフィックがそのきっかけの一端を担えているなら、とても嬉しいことです。

ACのイベントには、若い世代の来場者も多いのでしょうか?

加藤:年々増えています。我々世代はクルマを「個人で所有するもの」として考えていましたが、若い世代はビンテージカーを共同保有するという新しいスタンスも広がっていることもあるのだと思います。

久保:最近雑誌の企画で若い2名の男性に取材したのですが、一人は27歳で、ブルーバードSSSアテーサオーナーなんですよ。つまり彼が生まれる前の車を所有しているということですよね。
もう一人は1996年型のゲレンデヴァーゲンを所有する25歳の方で、「新しいGクラスよりも古いゲレンデの方がナロウでクールだから乗っている」と語っていました。私より一回りも二回りも若い世代からそういったクルマへの愛着やこだわりを聞けて、とても嬉しかったです。

加藤:デザインやスタイリングに惹かれて車を選ぶのは素晴らしいことですが、過去の文脈や文化を知るともっと面白くなります。クルマの歴史や背景を学ぶことで、自分の中でその価値や理解がさらに深まってより自分のクルマを好きになれると思います。
若い世代に1つだけ提案するとすれば、クルマの歴史をもっと知ってほしいということですね。

ACのイベントは、クルマ文化の奥深さに気づくきっかけになりそうです。

関:洋服でも同じで古着や昔のファッションが良いとされるのは自動車にも通じるところがありますよね。デザインやトレンドは、一巡して昔のモノの価値が見直されるリバイバルの流れがありますから。

加藤:そもそもクラシックの定義も変わってきていますよね。私にとってのクラシックカーは1950年代~1960年代のクルマですが、今の若い人にとっては1980年代~1990年代の車がクラシックになるわけですから。

関:それぞれの世代でクラシックの捉え方が異なるのは面白いですよね。クルマの場合は乗ってみるとそれぞれの年代のクルマならではの「乗り味」を感じられる。
外観のデザインや内装はもちろん、操作感は現代車では味わえない感覚がある
し、それがやっぱりヘリテージカーの魅力なのだと思います。


日本特有の自動車文化を世界へ発信していきたい

自動車産業もどんどん変化していますが、今後ACの活動を通してクルマの魅力をどう伝えていきたいですか?

関:私が今後も伝えていきたいことは「自由に移動することの楽しさ」です。車を運転することで、好きな時間に好きな場所に行ける。これは贅沢なことであり、人生を豊かにする重要な体験だと思っています。ヴァーチャルも良いですが、リアルな体験が人生を豊かにします。
次世代の自動車のパワートレインが何になるかは私たちの世代では結論が出ないかもしれませんが、
その時代の変化を真剣に考えながら楽しむ姿勢が何より大切だと思いますよ。

加藤:私も近しい考えで、社会的意義云々より20世紀最大の発明と称されるクルマの魅力を、これからも伝えていきたいですね。単純に「楽しいものだ」ということが原動力になるべきだと思ってます。
最近では「東京モーターショー」も「ジャパンモビリティショー」と名前が変わり、より広い文脈で捉えられるようになりましたが、私たちACは日本特有の自動車文化を発信し続けることを目指したい。
それが海外にも届いて、日本全体の自動車業界が活気づく一端を担えればと思っています。そのためにもこれから自動車産業の中心を担う若い世代や子どもたちにもクルマの魅力を届けられるアプローチを考えていきたいです。

久保:人は寿命が来れば亡くなりますが、クルマは修理すれば生き続ける存在なので「機械としての遺産」です。私たちはその一時的な預かり手として、次世代へ引き継ぐ責任があると思ってます。
ACのイベントが終わるたびにメーカーや販売店の方々が「来年はこうしよう」と次への意欲を持ってくれているので、今後もクルマ好きに刺激を与え続けることが業界全体の活性化に繋がると信じています。


イベントの魅力は人と人を繋ぐこと ―10年続いたACの原動力とは

10周年を迎えたACですが、最後に今後の展望や意気込みを教えてください。

関:イベントは3日間ですけど、そのために1年かけてしっかり準備をします。このプロセスがとてもやり甲斐があるんですよね。当日来場者が「今年の展示はすごいね」と声をかけてくれたり、おじいちゃんが孫にクルマの説明をしている光景を見るとつい嬉しくて疲れが吹き飛びます。

出典:AUTOMOBILE COUNCIL CAR OF THE YEAR 2024

久保:イベントというのは、来場者がどれだけ楽しめるかが全てです。ACはクルマ好きのための「大人のディズニーランド」だと思っています。現場で来場者の笑顔や反応を直接見られるのがイベントの醍醐味ですよね。
ウェブでは数字でしか見えないですが、イベントでは手応えとして伝わってきます。それがモチベーションにも繋がっていますね。

加藤:雑誌は一方通行なメディアですが、イベントではお客さんとのインタラクションが生まれる。イベントの魅力は、やはり人と人を繋ぐところにあると思います。
それがライブ感であり、イベントならではのケミストリーですよね。

これまで10年止まることなく続けられたのは、皆さんの強い思いがあったからこそだと思います。

関:お客さんが少ない時期もあったけど、それでも売れた車の台数は変わらなかったんですよ。この10年で、日本の自動車文化は間違いなく前に進んでいると実感してます。
もちろんそれはACだけの功績だけじゃなくて、他のイベント団体の努力も含めて、皆さんがいてことの成果だと考えています。お互い刺激を与え合いながら、これからもさらに盛り上げていきたいですね。

加藤:コロナの時は日程変更などもありましたが、それに誠心誠意に対応してくれたメーカーやディーラーの方々には本当に感謝しています。

ACが歩んだこの10年は、日本のクルマ文化に新たな視点をもたらし、「クルマを愉しむ」という価値を多くの人々に伝えてきた。そしてこれからも、ACは「クルマ文化の継承と進化」という使命のもと、さらなる挑戦を続けていく。
時代が移ろうとも、本当に価値あるものは受け継がれていく――。そんな想いを胸に、ACは今年も皆様をお迎えする。名車たちとの出会いが、自動車文化の奥深さを体感する特別なひとときとなるはずだ。未来へとつながる「クルマを愉しむ」喜びを、ぜひ会場でご堪能いただきたい。

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