「ガンガン乗れる、頑丈なボルボが欲しい!」
憧れのヘリテージカー。実際購入するにあたり、選び方や知っておきたいことを、専門家に指南してもらう新企画。それぞれのクルマの歴史や他にはない特徴などにもお答え。一緒に、玄人が唸る希少なクルマも教えてもらいました。
第九回目となる今回は、昨年のオートモービルカウンシルにて〝クラシックガレージ〟というレストアプロジェクトを発表したボルボ・カー・ジャパン。実際にレストアされた車達を目の前に、クラシックボルボの魅力をお聞きします。
まず最初にVOLVOというメーカーについて、教えてください。
阿部氏(以下A)「ボルボは北欧、スウェーデンの自動車メーカーで、1927年に一代目をラインオフしてから今年で丁度90周年を迎えます。当時からのボルボの最も重要なキーワードは“安全”。日本でも安全な車、頑丈な車としてのイメージが高いのではないかと思います」
確かに、日本でのイメージはその通りですよね。その安全、頑丈さへのこだわりは、スウェーデンの過酷な環境と関係しているのでしょうか?
A「そうですね、スウェーデンの気候というのが、一年の半分が冬で、冬は零度を下回り雪が降るのに対し、夏は30℃前後で非常に暑い、気温差の激しい気候。そういう環境で作られた車なので、非常に過酷な環境を安全に走れるような作りになっています。元々会社の生い立ちが『車は人によって操作されるもの。それ故に車は安全でなくてはならない』という考えが源流にありますので、運転している方はもちろん、運転していない方まで安全であること。とにかく安全性を第一に車作りを行っています」
では、ボルボならではの強み。他にはない特徴はありますか?
A「ボルボならではの強みですと、安全性も去ることながら耐久性にも非常に注力しています。通常のボルボの車は50万キロ走ることを見越して車作りをしていますから、中古車で10万キロと聞くと、皆さん少し遠慮する事が多いと思うんですけれど、ボルボの車にとってはまだまだこれからなんです。それと、雪の降る地域は道路に塩を撒きますよね、滑り止めや凍結防止の為に。もちろんスウェーデンも同様なんですけれども、これは車で塩水の中を走るようなもので、通常はボディが悪く錆びてしまうんです。ただボルボは、その為に下回りの防錆加工を、新車時から徹底的に行っています。そういう防錆処理を1960年代初頭から継続して行っていますので、未だに現存してるボルボ車が多いのはそういった理由も大きいのかと思います」
ボルボのヘリテージカーは、数多く現存しているのでしょうか?
A「そうですね。日本に輸入されたのは1960年代初頭からでして、当時はヤナセさんが正規代理店として輸入を開始されているんですけれども、その当時輸入されたものでもかなりの台数が残っていますので。台数が一定数残っていますから、価格もいたずらに高騰することなく、様々な方に楽しんでいただけると思います」
では、ビギナーの方に向けて、お勧めしたいモデルというのはどちらになりますか?
A「そうですね。展示してる車の中ではこの1991年式の240GL ワゴンをおすすめしたいです。初めての方がクラシックカーを買おうと考える際に、最も心配なされるのが故障だと思うんですけれども、この車は作り自体が非常にシンプルなので、何か壊れても比較的に簡単に修理できます。今の車は、全部コンピューターなど、多くがモジュール化されているので壊れてしまうと、関連部品をまとめて交換…となってしまったり、修理費が高くついてしまいがちですが、この辺りの年代の車は一つ一つの部品が独立していますから、ピンポイントに必要な物だけ交換という事で済むので、比較的安価に済むんです。パーツも豊富にあるのがボルボの強みの一つですね」
万が一の際も安心なのは心強いですね。デザインや、機能的に魅力的なポイントはどちらになりますか?
A「私個人としましては、やはりこのボクシ―なデザインは大変魅力的に思えますね。この、カクっとしているフォルムなどは、いつ見てもクールです。ボルボといえばこの形をイメージされる方も多いのではないでしょうか。機能的には、かなりベーシックな作りではありますが、ボルボの安全基準に基づいて作られていますので、安全性への配慮は怠っておりません。例えば万が一事故が発生して、車内に激突するような事があっても怪我を防ぐために内装はすべて柔らかい素材で出来ています」
当時から安全への配慮は欠かせないものだったのですね。ところでこの車、車体が長くて、運転が難しいように思えますが…実際のところ、どうなんでしょうか?
A「確かに長いのですけれども、いざ乗ってみますと、あまり長さを感じないというが本音です。この車、凄くハンドルが切れるのでとても取り回しが良いんですよ。確かに長いのですが、他の車と比べるとそこまで長くは無い上、今の車と比べますと幅も狭いですから。軽自動車並みに、小回りは効きますよ。前の角がしっかり視認できるので、見切りが良くて運転はとてもしやすいです」
荷物が沢山入るイメージです。
A「はい、この切り立ったドアのおかげで、荷室に荷物をめいっぱい積む事もできます。仕事で荷物を沢山運ぶ方とか、アウトドアとかにはもってこいだと思いますよ。シートを倒しますと、サーフィンボードなどもそのまま入ってしまいます。大人の方が足を伸ばして寝れる位のスペースは確保できますよ」
それでは逆に、上級者の方々へお勧めするモデルは、どちらになりますか?
A「やっぱり、ボルボを何台も乗り継いでくださる方の中でも最終的に240の素性の良さが恋しくて、戻られる方は数多くいらっしゃるんですけれども、あえて少しマイナーなツウ好みの一台を挙げるとしたら、こちらのガンメタリックの960などが、オススメですね。年式的にはほとんど日本に輸入されていない珍しい車になりますね。年式的には1993年式で正規輸入されているんですけれども、日本に現存している個体はかなり少ないと思います」
あまり残っていない理由はどういったものなんでしょうか?
A「同じ900シリーズの中で、960と940の二つのグレードがありまして、940が2.3リッター四気筒エンジンの日本で沢山売れたモデルでして、960は3.0リッターノンターボの排気量の大きいパワフルなモデルになります。この二台はボディは共通なんですけれども、960の方が上のグレード、当時のボルボのフラッグシップとして発売されたモデルになります。最上級のモデルだけあって、内外装の作りも基本的に異なっていて、ところどころメッキや、本革など上質な素材が用いますので、非常に高級感のある作りとなっています。フラッグシップのモデルなので、新車時代から割合的には1台960が売れる間に9台の940が売れてしまう位の割合でしたので、960はそもそも販売台数が少なく希少なんですね。それゆえ現在の残存数が極端に少ないものになっています」
では、クラシックカーの魅力とは何でしょうか?
A「やっぱりデザインだと思います。今こういうデザインの車を作るのは難しいですから。特にこの240などは、シンプルなデザインですけれども、そこに生まれる皆さんの豊かなライフスタイルなどを想像できると言いますか、シンプルながらも非常に奥深いデザイン、パッケージングなので、皆さんに長く愛用していただけているのだと思います」
最後に、このAUTOMOBILE COUNCILというイベントへの想いを聞かせてください。
A「そうですね。こういった古い車にスポットを当てたイベントはメーカーとしても大変有難いことだと思っております。ボルボにもこういう車があったんだ!と知っていただけるのと同時に、長年ボルボのクラシックカーに乗っていただいてる方達にも、より魅力を深く理解していただける素晴らしい機会ですから。今は幕張メッセだけですが、車好きは全国区でいらっしゃいますから、いずれは全国各地で広く長く皆さんで楽しめるイベントになって頂ければと思います」
Photograph:Taku Amano
Edit & interview::Tuna
Text:Chihiro Watanabe