「育てられるモノを選びたい。長く使えるモノであり、パーソナルになるモノを周りに置きたい」
前回、スタイリストの島田さんより「学生時代の同級生でクールなベンツに乗っている友人のスタイリストがいます」と教えてもらい伺ったのが今回の武久さん(以下武)。長い間ロンドンでスタイリストをやって帰国。世界のファッションの第一線の景色を見てきた彼が選んだ車は、ベンツのクーペ。「どうせ買うなら見た目がカッコイイもの。自動的にクラシックカーになりました」という愛車は、深いブルーが美しい。車のこと、モノ選びの基準、ライフスタイルについて伺ってきた。
武久さんはロンドンでずっとスタイリストとして生活していらっしゃって帰国されましたが、その経緯は何でしょうか?
武「学校を卒業する時、その当時スタイリストになりたい人で溢れていて。流行っていたのもあるかもですが、その中でどうしたらトップレベルのスタイリストになれるか考えていたんです。それでロンドンに留学して、ブック作ればスタイリストになれるかと。今考えるとうまくいくはずが無いのですが、留学して沢山作品作ったのですが、一流のスタッフではないため、埒があかなくて。そこで、ロンドンで有名なスタイリストに付こうと思い、ニコラ・フォミケッティにつきました。レディーガガやユニクロ、最近はディーゼルなどやっていますが、その前の雑誌のクリエイティブ時代のアシスタントをやっていたのですが、それが逆に良かったです。アイディアの出し方、瞬発力、ルールがある中での考え方など、世界の一流に触れる事ができたのはとても勉強になりました」
スタイリストとして大切にしている事は何でしょうか?
武「例えば雑誌で自分の作品が掲載された時に、衝撃か何かを与えたいと思っています。それはモノのハイかローかは関係なくて。それは雑誌をパラパラめくっていて、読者が手が止まる感じ。僕は美術館に行く時、そういう見方をしています。ゆっくり歩いてみていて、作品によってはピンときて止まって見る。それは雑誌をめくるのと同じだと思います」
それではベンツのクーペに関してですが、選ばれた理由は何でしょうか?
武「どうせ買うなら見た目がカッコイイのが良くて、ウェブで探していたら名古屋にこの車があることがわかって。東京在住ですが、伊勢に行くことがあって、その帰りに名古屋によって見に行ったら思ったよりもかっこ良くて。特にこの中間色のようなブルーが気に入って、即この車に決めました」
職業として車が必要だったので探していたのでしょうか?
武「いや、趣向品です(笑)。プライベートで使っていて、キャンプなども好きなんで、そういう時に使っています。なので贅沢品で、仕事ではあまり使わないようにしています。これで無理をしたくないっていう(笑)」
機能的な部分で特に気に入っていることは何でしょうか?
武「窓が全部開くところです。フレームも無くなるんですよ。そういう面で、セダンよりもワゴンよりもこれが一番いいかなって思います。高速道路などジャム系の音楽かけながら風を入れて走るのが気持ちよいです」
内装で気に入っているのはどこでしょうか?
武「シートが好きです。元々ボルボに乗っていてシートは革張りだったのですが、これは布製なところが良いです。2台目で気分が変わるのでよかったかなと。ベンツのクーペは古くて四角い車で、高級車っぽい仕様なのも気に入っています。メーターもカッコイイですね、ただたまにコンコンと叩かないとライトがちゃんと付かなくて(笑)。でもそういうところも愛らしいですね。また、ウッド調のところも好きです」
ナビはスマホでやっているのでしょうか?
武「はい、もう何も剥がしたくなくて。スマホが優れていてアップデートも常にできるので、新しい道も出てきますし。10年前だったらカーナビにしていたかもですが、今はスマホで十分です。不便は今のところ感じてないですね。クーラーも音楽も最低限なところは問題ないです。こいつが旧車の中でも部品もある方だし、仲間もいるし、丈夫だし。クラシックカーの中では乗りやすいですね」
クーペだからこそ街で起きたエピソードは?
武「全く同じ車種の色違いを見かけて、知り合いが同じのに乗っていると聞いていたので、もしかしてと思い近づいたら、全く知らないおじさんでした。おじさんもこっちに気がついて笑顔で手を振ってくれたのですが、あの無邪気な笑顔を出来る人は絶対素直で良い人ですね(笑)」
それではクーペも含め、モノ選びで大切にしていることは何でしょうか?
武「育てられるモノです。使い捨てはしたくないです。なのでファストファッションは好きじゃないです。基本的には少し高くても長く使えるモノを買います。吟味することが好きで、モノによって様々ですけど1年以上考えることも。色々な条件で見切りは付けていますけど、長く使えるモノであり、パーソナルになるモノがいいです」
この車も育てていきたいですか?
武「はい、そのつもりでいます。飽きがきたら色を全部変えてしまってもいいと思っています。自分の居心地をよくする、という意味でカスタマイズして育てていきたいです。もし手放す場合は自分の近くでこれを大事にしてくれる人を探したいなと。何でも愛着が湧くモノを選びたいです。今までの人生の中で愛着が湧かないモノを買った失敗も沢山あって、特に洋服などそうなんですが、それらを経験してきたので、本当に自分にとって良いものをしっかり選ぶことを大切にしています」
最後にクラシックカーの魅力とは何でしょうか?
武「究極、見た目のかっこよさだと思います。アクセサリー、装飾品だと思います。例えばこの世に誰もいなかったら旧車には乗らないですよね、絶対四駆乗ります(笑)。極論ですが服もそうですが、カッコイイものを使うっていうのは、自己満足でもあり、第3者への自己表現だと思います」
photograph : Taku Amano
edit : Takafumi Matsushita
interview : Yuto Murakami