「人生はめんどくさいことの連続」──楽な道ではなく、挑戦を選び続けた理由
少し話題は変わりますが、仕事に対してどのような価値観を持っていますか?関さんの仕事感をお伺いしたいです
関:あまり偉そうに言えないのですが私個人としては、仕事というのは人生で最も楽しい時間の使い方の一つだと思っています。すみません(笑)。限られた時間の中で、何か目標を持って取り組むからこそ、真剣さややりがいが生まれます。
ただ、老後のビジネスだから「儲からなくてもいい」と割り切ると甘えが出てきます。それはどこか業務に対して雑になってくるような気がするんです。やはり仕事ですから何かしらの目標や社会的意義を持って働くことがすごく大切だと思っています。
若い世代との関わり方について何か考えていることはありますか?
関:新車のプロモーションや電気自動車のPRといった現代のメインストリームのビジネスは、若い世代に任せるべきだと思っています。我々世代が経験だけを頼りに、しゃしゃり出るのはフェアではないかなあ。私は若い人たちにチャンスを譲るのも年配の役割であり配慮だと思っています。その一方で、高齢化社会の中で年配世代だからこそ分かる感覚や視点もあるので、そうした分野で私は事業を組み立てることを大切にしています。
ACの事業スタイルはスタートアップ企業に似ていますよね
関:そうですね。メンバー全員が豊富な経験とノウハウを持っているので、議論や検討に無駄な時間をかけず、スピーディーに物事を進められます。ACのプロジェクトは、戦艦大和のような巨大な船ではなく、小船のような柔軟さが特徴です。朝令暮改は日常茶飯事です。舵を切ればすぐに方向転換できる。そういう意味ではスタートアップ企業のような機動力をACの強みとして大切にしています。
ACを立ち上げてから、サラリーマン時代と比べて感じた充実感や苦労はありますか?
関:仕事に対する価値観は大きく変わりましたね。サラリーマン時代は、適当な仕事をしても給料はもらえましたが、ここでは自分の名前とお金で全て勝負しなければなりません。極端な言い方ですが、責任の重さは全く違います。でもその代わり、サラリーマン特有の「自分で決められない」ストレスからは解放されましたね。お金のプレッシャーはありますが、精神的にはとても開放感があります。
その年齢で経営者になるのは珍しいですよね。負担が大きいと感じることはありませんか?
関:40年近くサラリーマンをやってきたので、考え方を経営者の視点に切り替えるのに3年ほどかかったみたいです(笑)。自分では意識していなかったのですが、税理士さんに「やっと経営者になりましたね」と言われた時、自分でも少しずつ仕事のやり方や組織を運営していく視点が変わってきていたんだと感じましたね。
人生観というより、仕事への向き合い方そのものが変わったんだと思います。ACを始めたからこそ、経営者の視点で仕事を見れるようになったと思います。サラリーマンとしての仕事の向き合い方と両方を経験できて本当に良かったと思っています。
起業せずに、もっと楽な道も選ぶこともできましたよね
関:楽なことが一番大切だとは思っていないんですよ。人生って、めんどくさいことの連続ですからね(笑)。楽な道ばかり選ぶと、どこかで必ず罠にハマる。むしろ、夢を持ってチャレンジし続ける方が自分らしくいられるし、充実感が持てると思います。
ACを立ち上げてから困難なことに直面することも多いですが、それを楽しむこと。その経験を通じて物事を「自分事」として捉えられるようになりました。評論家的な視点がなくなり、いろんな出来事にアクティブ且つポジティブに向き合えるようになりましたね。
新たな挑戦をする難しさを感じることはありませんでしたか?
関:確かに難しさはありますが、私は「日本のサラリーマンは、60歳まで真面目に勤め上げれば、事業の一つくらい起こせる力がある」ということを示したかったんです。私自身サラリーマン時代に役員になったわけでもない普通の会社員でしたが、それまでの経験とノウハウがあれば事業を起こせると信じていました。自分に何が出来るのか?自分の長所と短所は?自分の武器は何なのか?を少しだけ真面目に考えました(笑)。だからACの活動は、「私にできるなら、みんなにもできる」という同世代やこれから60歳を超える後輩の方々への応援メッセージでもあるんです。
関:定年退職後、やることがなくて困っている人も少なくないですが、長年積み上げてきた経験が新しい仕事で形になることを、自らの挑戦を通じて証明したいと思っています。それもあって、同世代の仲間を集めたのかもしれませんね。
新しいものを作るのに、必ずしも特別な才能が必要なわけではありません。私ができたんだから、みなさんにもできる。そんな気持ちがあります。そして一番大切なのは(ACの企画そのものを面白がってくれる)良い仲間と、一つの目標に向けて仕事が出来ることですね!
「損得だけじゃない」クルマの文化を作る想いが支えた、コロナ禍での挑戦
ACの活動を続けてきた中で、特に印象に残ってることを教えてください
関:やはり、2020年のコロナ禍が最も印象深いですね。あの苦しい時期にイベントをやり遂げたことは、我々を支えてくれた参加企業・来場してくださったお客様がいたからでした。本当に全てのステークホルダーの方々には感謝しても感謝しきれないです。そしてコロナ禍にスタッフが1人もイベント開催を辞めようと言わず、私に付いて来てくれたことは今でも私にとって誇らしい経験でしたね!
2020年4月に幕張メッセでの開催を予定していたのですが、3月に緊急事態宣言が発令されて中止になりまして。5月に延期したものの再び開催できず、東京オリンピックが一年順延されたことで最後のチャンスとして8月開催を目指しました。水谷くんが会場スケジュールをすべて押さえてくれたおかげで、奇跡的に実現できました。しかもイベントの翌日から再び緊急事態宣言が出たので、本当にギリギリの開催でしたね。

コロナ真っ只中、奇跡的に開催に至ったAUTOMOBILE COUNCIL 2020 のイベント風景
あの時期は大型イベントやフェス等も延期・中止の決断をしてましたが、ACの皆さんがコロナと果敢に戦ってる姿がとても印象的でした
関:ACの活動は、単なる興行ではなく、「新たなクルマの文化を創生」という使命感が根底にあります。その想いを関係者全員が共有していたからこそ、開催を決断できたんです。損得だけを考えたら、中止した方が良かったのかもしれません。
でも、「文化を未来に残す」という目的があったからこそ続けられた。若い世代に「コロナ禍で結局イベント開催を諦めた。コロナに負けた。」と言われたくない。我々世代の意地みたいな気持ちもありましたね(笑)。
クルマが主役。関がこだわる”自動車文化のフェスティバル”
個性的で熱量の高いメンバーが集まっているからなのか、ACのイベントはカルチャー色が強く、他の自動車イベントとは一線を画していると感じます
関:自動車会社のブランド戦略部長時代に、FUJI ROCK FESTIVALやROCK IN JAPAN FESTIVAL等の音楽フェス創世記に、スポンサード作業を通じて自動車イベントの視点と全く異なる音楽イベント体験を経験したことが大きかったです。ですので、最初から「自動車のフェスティバル」を作ろうと思っていました。若い世代にACを説明するときも、「自動車のフェスをやりたいんだ」と伝えているんです。もちろんクルマが主役であることは変わらないですが、音楽ライブやレコードコンサート、食事、トークセッションといった多様なコンテンツが同時進行しているのが特徴です。それぞれ興味が違う方々が、いろいろな楽しみ方を見つけられるようなイベントを目指してきました。


(出典:オートモビルカウンシルの楽しみ方)
関:会場自体は広大というわけではありませんが、だからこそ密度の高いフェスティバルの雰囲気ができあがってきたのかなと思っています。最初のコンセプトを年々意図的に変化させてきた部分もありますが、結果的にはお客様が望んだ形に自然と修練してきたんだと感じています。
単なるクラシックカーの展示イベントではなく、“文化”を発信するフェスティバルになっているのが興味深いです
関:悪い意味ではないのですが、フランスのパリで開催される『レトロモービル』というクラシックカーショーに行った時に会場が混みすぎていて、肝心のクルマがよく見えなかったんですよね。
クルマが主役のイベントなのに、車をじっくり見られないのは、私がやりたいショーとは少し違うなと思いました。


レトロモービルの様子 (出典:関さん撮影)
具体的に“クルマを主役にする”工夫はどのようなことをしているのですか?
関:ACではブース内での音や過度なコスチュームの女性コンパニオンを禁止し、余計な演出を排除しています。その上で、フェス的な要素を取り入れているんです。ある意味二律背反的なものを両立させようとしています。
従来の自動車好きの方々はとても大切なお客様であることは言うに及びませんが、大人のオシャレ空間を作ることで従来自動車に距離を持っていた方々(特に女性が多いかなあ。)が、何らかのきっかけで自動車に興味を持っていただきたい。そこが私のこだわりですね。
クルマを通じて文化全体を盛り上げていきたいという想いがあるので、クルマを中心にしつつ、音楽やアート、フードなども楽しめるイベントにしています。来場者が自然と「カルチャー」としての自動車の魅力を感じられるような場を作っているんです。
音楽や食、ファッションなど、さまざまな文化とクルマを結びつけていくことで、自動車文化の新しい可能性が広がりそうですね
関:そうですね。他にはない、世界で唯一無二のイベントを目指していますし、毎年何かしら新しい要素を取り入れて、内容をアップデートしています。イベントがマンネリ化しないように、どんどん新しいことも取り入れていくってことを意識してますね。そして「大人の嗜みとしての自動車文化」を作りたいですね。
これまでAUTOMOBILE COUNCILの10年にわたる歩みとその背景について、ファウンダーであり総合プロデューサーの共同代表の関氏を中心に深く掘り下げきた。Vol.3のインタビューでは引き続き関氏に加えて、株式会社カーグラフィック社の代表取締役でもう一人のAC共同代表の加藤氏、株式会社カーグラフィック社の取締役である久保氏を迎え、自動車文化の未来について語っていただく。