「ひとつひとつのプロセスを楽しむことが大切なのです。クラシックカーはそれを満たしてくれます」

ドイツの伝統的な技術を元に、製本士として活躍するマークスさん。ベルリンの中心地ミッテに工房を構え、日々制作に励むだけでなく、ベルリン芸術大学では講師として、学生達に製本の面白さを伝えている。2003年からの相棒は、フューチャリスティックなデザインに思わず目を奪われる「Citroën DS20」。彼の自宅兼工房にて、製本士の仕事、愛車とのストーリー、モノ選びの基準について伺ってきた。

マークスさんが製本士を志した経緯、仕事内容について教えてください。

マークス氏(以下マ)「1979年から製本士について学びはじめ、今に至ります。専門的な知識を学びたいというよりは、自分の手によってものを作り出す技術を学んでクラフトマンになりたかったのです。陶芸など色々と経験していく中で、製本の世界に魅了されました。通常、製本士というと図書館と仕事をするのが一般なんですが、私はもっと可能性を追求したくて。今では仕事としての製本だけでなく、ワークショップ、アーティストとのコラボレーション作品など、様々な形で取り組んでいます」

それでは愛車についてですが、『Citroën DS20』を選ばれたきっかけは何でしょうか?

マ「2003年、フランスのクラシックカーを取り扱っている知人から購入しました。彼がフランスへよく行っていたので、一緒について行ったんです。憧れのCitroënを購入するなら黒と決めていたのですが、実際に見てみて、ダークブルーに惹かれました。このダークブルーとホワイトのルーフ、赤い座席の組み合わせは素晴らしい。まさにフランスのトリコロールですよね」

愛車で気に入ってるのはどこでしょうか?

マ「フューチャリスティックなデザイン、メカニックなテクノロジー、デザイン全てが素晴らしいです。ドライブするときのフィーリングも最高ですよ。乗り心地はもちろん、車内に響くエンジン音もたまりません。車好きの友人を乗せた時、運転中の匂いも褒められました。これぞリアルカーの匂いなんです」

いつからクラシックカーが好き?

マ「子供の頃からですね。今でも覚えているのですが、8歳の頃、Citroënの描かれたマッチ箱をミニカーに見立ててよく遊んでいました。フランス映画『Fantômas』で見て以来、『Citroën DS』に憧れていたんです。いま実物を手にして、長年の夢が1つ叶ったと感じています」

愛車との思い出・エピソードはありますか?

マ「10年程前に、ドイツ人フォトグラファーの友人とパリ~マルセイユを車で横断するフォトトリップをしました。パリからマルセイユに続くこの道は、昔と今で風景は変わってしまいましたが、50~60年代にかけてはガソリンスタンドで溢れているなど、まさにクラシックカーのための道だったんです。この旅を終えて、友人は撮影した写真を作品集として本にまとめました。アマチュアである私もぜひまとめたいのですが、なかなか時間が取れず、まだ先になりそうですね」

壊れたことはありますか?

マ「今のところ無事故です。ただ故障した際に整備施設へ持って行っても、なかなか原因が見つからず、困ることはあります。フランスのクラシックカーということもあって、ドイツでは修理方法が分からない場合があるんですね。だからミッテ(ベルリンの中心地)にある工房には乗って行かないようにしています。もし故障してもすぐに直せないので」

車を含め、モノ選びで大切にしている事は何でしょうか?

マ「ユニークなアイデアとデザイン、古い技術と新しいアイデアが融合したものに惹かれます。あとは手入れしたり、自分で作り上げていくなどプロセスが楽しめることも重要です。愛車も今年はここを直そうとか個人的なプランがあるんですけど、まさに手入れすることでモノを育てていく感覚ですね。モノ選びに限りませんが、常に学び続けることが大事です。おかげで1日も退屈だと感じる日はないんですよ」

最後にクラシックカーの魅力とは?

マ「デザインとリスクです。便利で簡単でないことに魅力を感じます。現代の車やドライバー達は安くて速いこと、トラブルがなくスムーズであることを重要視する傾向がありますが、私にとっては問題がないこと自体が問題なんです。ドライブや旅行も高速道路ではなく、あえてローカルな小道を選びます。なぜなら高速道路はクラシックカーに合わないので。目的地までの道中、美しい風景を眺めたり、休憩をとったり、そのひとつひとつのプロセスを楽しむことが大切なのです。クラシックカーはそれを満たしてくれます」

photograph : Saki Hinatsu

interview : Yukiko Yamane