「レトロで綺麗なブルーに惹かれて。アルファロメオは思い出深い車でもあります」

30年以上も続くコレクションブランド「RITSUKO SHIRAHAMA」が2017年A/Wカタログで「アルファロメオ、ジュリアスパイダー」を起用。「今季のテーマにぴったりの美しいブルーと流れるようなシルエットに惹かれました」と語るのはデザイナーの白浜さん。その服づくりの想い、クラシックカーを起用した理由とは?

まず「RITSUKO SHIRAHAMA」とはどういうブランドでしょうか?

白浜氏(以下白)「33年間やっているブランドです。元々他のアパレル企業で働いており、母がやっていたこの会社に入りました。初めは小さなブランドを担当していたのですが、ある時、上の方々に作品をみせることがあったのですが「ショーをおやりになったら?」と言われて。そんなことは考えてもいなかったのですが、それがきっかけでデビューし、コレクションデザインをすることになりました。年2回作品を発表してきて今に至ります」

ブランドのコンセプトは何でしょうか?

白「インターナショナルな思考を持っている女性、世界的視野を持っている女性に向けて服を作りたいと思ってきました。自分だけのことだけでなく、世界で今何が起こっているのか。ここに興味を持った自立した知的な女性、つまりグローバルな視点を持っている方…自立、共存、ユニティーといった思想を大切にしている方に向けて制作しています」

それはファッションだけでなく、政治や経済なども含まれますか?

白「はい、そうです。自分自身もそこに関心を持っていたいと思っています。私は、ブランドを始めた当初、年2回のコレクションを発表していくなかで、パリに出たいと思うようになりました。自分の商品が世界的に認められるか挑戦してみたくて。今は沢山のブランドがパリで発表しますが、90年代初頭、当時はまだ日本人であまりいませんでした。なので、話を聞くにしてもなかなか情報がなく、体当たり的に現地に行ってそこのディストリビューターに直接交渉したりして…どうにか評価してもらって展示会に出展させてもらえるようになりました」

実際にパリに進出されていかがでしたでしょうか?

白「10年以上パリでやっていたのですが、とても良い勉強になりました。フランス、イタリア、ドイツ、イギリス、アメリカ…あとUAEやクエート、サウジアラビアなど中近東の国の方、さらにロシアやアジアなど多くの国の方々とビジネスをやってきました。パリでやっていると世界情勢が見えてくるんですね。今この国が強い、ここが弱くなったという感じです。昨年まで来ていたアメリカのバイヤーが突然こなくなったり、突然アジアの国々が多く訪れるようになったり。9.11の後やリーマンショックで世界経済が混乱した時に、自分でもやりきった感があり撤退しました。そのあと中国でアパレルを立ち上げたりして、今に至ります」

チャレンジされて大変な思いもされたと思いますが良い経験になった感じですね?

白「はい。自信をもって『このスタイルが良いんです』と発表し、それに対してジャーナリストに叩かれることも。一時期はそこに悩まされたこともありました。ただ、挑戦しないとそういう経験って得られないですし、今は価値があったと思います。何もしかけなければ何も起こらないわけですから。私は『安定は安全じゃない』と思っています。これは服、仕事、生き方など様々な事柄にいえます。いつも着ているような服を着る。でもこれは安心かもしれませんが安全ではないですよね。時代は流れ、古くなりますし、人の目にも留まらない。安全ではないと思っています」

お客さんの年齢層はおいくつぐらいでしょうか?

白「40代が多く、50〜60代の方もいらっしゃいます。幅広いんです。前回の『VOGUE JAPAN Women of the Year』では小池都知事が私の服を着て取材されておりとてもお似合いでした。そういう振り幅があるのは嬉しいです。今季は『女性党首の服』というコンセプトの服も作っています」

では2017 A/Wのことについて伺いたいのですが、カタログで「アルファロメオ」を使用されています。この理由は何でしょうか?

白「まずテーマに『レトロポップ』を掲げて60年代〜70年代のレトロな感じを少しポップに仕上げたのですが、カタログを作ろうとする時に友人が乗っているブルーの『アルファロメオ』を貸してくれるという話があって。『1962年製のアルファロメオのジュリアスパイダー』で、この車種は赤い色を多く見かけますが、オーナーがこの色が好きで純正色らしいのですが、あえてこの色に直したと聞きました。今季の服のキーカラーは鮮やかなフューシャピンクでしたし、車もとても綺麗なブルーだったのでぜひお願いしたい!と。そのカラーコントラストが絶対映えると思ったんです」

なるほどレトロポップとはまった訳ですね。

白「そうです。また『アルファロメオ』はうちの主人も昔のっていたので思い出深くて。彼は当時『アルファロメオのGTベローチェ』に乗っていて付き合いはじめた頃、私が同乗した時にクラシックカーなので、エンジンがかからなかったことがありました。その時『どうも車の調子が悪い…焼きもちを焼いている、ジェラシーだ』って(笑)。そういうのもあって馴染み深い車なんです」

なるほど。 撮影時はいかがでしたでしょうか?

白「こんな豪華なプロップ(小道具)ははじめてで撮影スタッフ一同テンションあがって。アートディレクターもスタイリストも『え!使えるの?』って。モデルがフロントにたっているカットなど、エンブレムが隠れたサブカットもあったのですが『いやエンブレムはぜひ生かしたい!』と。それでこのカットを採用しました。エンブレムは出さなきゃだめでしょって」

撮影時には扱いに気を使いましたか?

白「はい、基本的には専門の方に入ってもらって動かしてもらいました。オーナーからは『ボンネットの上に乗るのだけは頼むからやめてね…柔らかくてへこんじゃうから』と言われていて。それだけ愛していらっしゃる。なので大切に扱いました。座席に立ったカットもありますが」

カラー以外で魅力的だったのはどこでしょうか?

白「流れるようなシルエットやまんまる目が素敵ですね。あとオープンのカブリオーレも。凄く状態がよくて綺麗でした。かなり手入れしていらっしゃると感じました」

では、クラシックカーのように時代を超えて残る美しさについていかが思いますか?

白「服は、車、宝石とはまた違うのですが、何千万円のものもあればファストファッションもあります。ファストファッションは使い捨てのような…ワンシーズン着たらもういらないというもの。これによって服の価値が下がったのが悲しいです。平気で捨てる感覚。私は、捨てられない服を作りたいな、と。皆さん恐らくワードローブに何年も着ていないけれど捨てられない服ってあると思います。捨てられない服。そういう服を作りたいですね。古いお客さまで20年前のものを『捨てずに今でも持っています』という方がいて、そういうのは嬉しいです」

そのためには、世界的な視野だったり、政治など幅広い視点を持った服作りを目指されている、ということですね。

白「はい、あとは環境問題なども気にしています。前に『日本の森を大切にしよう』をテーマに、間伐材でドレスを作りました。森まで実際に取材に行って驚いたのですが木は切ってはいけないと思っていたのですが一度人が手を入れた人工林は間引きしないと森が脆弱になってしまうと。それでは間伐材で何か作りたいと。探すとちゃんと出てくるんですね。徳島に間伐材シートがあって、それを素材にマリーゴールドなどで染めて綺麗な色を使ったり、レーザーカットでレースっぽいディテールにしました。これはテレビなどでも取り上げて頂き、メッセージ性を世の中に伝える意味でも作って良かったと思いますし、こういうしっかりコンセプトを持ったものがクラシックカーのように残っていくものだと思います」

photograph:Tara Kawano(SWIM)
edit:Takafumi Matsushita