「クラシックカーのデザインやインテリアは、まさに架空の別世界へといざなってくれるんです」

バウハウス大学、ベルリン芸術大学を経て、現在はアーティスト・ペインターとして活躍するクリストフさん。時計修理職人からアーティストという面白い経歴を持つ彼のアート作品は、クリエイター達に人気のノイケルン地区にあるスタジオから生み出されている、2008年からの相棒は、渋めのカラーが素敵な「Mercedes Benz 1975」。彼のアトリエ兼スタジオにて、アーティスト活動や作品、愛車とのストーリー、モノ選びの基準について伺ってきた。


クリストフさんがアーティストになるまでの経緯、活動内容について教えてください。

クリストフ氏(以下ク)「2009年からバウハウス大学、ベルリン芸術大学にてファインアートを学びました。中でも特にオイルペインティング。実は本格的にアートを勉強する前、時計修理職人でした。時計は大好きなのですが、既存のものをただ修理するだけでは物足りなさを感じるようになったんです。徐々に自分で何かを作り出したいという気持ちが強くなり、アーティストの道を歩むことに決めました。それ以降、自分で何かを作り出すということは、私の人生におけるテーマでもあります。大学にて彫刻など様々なアートを学びましたが、中でもペイントはコンセプトやプランなしで感性をダイレクトに表現出来るという点に惹かれ、それ以降ペインターひと筋です。昨年大学を卒業し、晴れてアーティスト。今年はドイツ、中国で4つの展示を控えています」

壁には素敵な作品が展示されていますが、こちらは何かコンセプトがありますでしょうか?

ク「ベルリン芸術大学在学中から続けているシリーズです。キャンバス上の形にレイヤーや透明感を出すことはとても難しいテクニックで、ベルリン芸術大学在学中に教授と共にどうすれば上手く表現できるか、新しいペイント方法を追求した作品ですね。特別な雰囲気を醸し出すランドスケープを描きました」

時計が好きとお伺いしていますが、趣味の時計コレクションについて教えて下さい。

ク「2004年からずっと集めている自慢の時計コレクションです。フリーマーケットやインターネット上で探して、気に入ったものを購入しています。中でも70年代のドイツやスイスの時計に目が無いんです。プライスも手頃でクオリティも良く、何よりタイムレスなデザインが魅力です。日本のセイコーもありますよ」

それでは愛車についてですが、『Mercedes Benz 1975』を選ばれたきっかけは何でしょうか?

ク「2008年、南フランスのクラシックカーをリアルインポートしている知人から購入しました。15-16歳の頃に作っていたmixカセットテープコレクションがあるんですけど、それをどうしても聞きたくて。それが聞けることを条件としたら、必然的にカセットテープデッキがついてるクラシックカーを選ぶことになりました」

愛車で気に入ってるのはどこでしょうか?

ク「カセットテープデッキはもちろん、愛車のカラーや車内スペースが広いところも気に入っています。シルバー部分のフォルムも美しくて、ぜひ見てほしいです。クラシックカー全般に言えるんですけど、スローな運転をしてても、クラシックカーなら周りのドライバーも大目に見てくれるので、自分のペースでドライブを楽しめるところも魅力の1つですね」

どんな時に乗りますか?

ク「私の場合、ベルリンよりもホリデー中に実家周辺でドライブすることが多いですね。実家がニュルンベルグ近郊の村なんですけど、なんせカントリーサイドで、唯一の交通機関であるバスも本数が少ないんです。この環境こそ、車を運転するきっかけでもありますね。基本的に3月から10月末の間しか乗りません。というか、乗りたくても乗れないんです(笑)氷点下まで下がり、積雪するドイツの冬はクラシックカーにとって過酷なシーズンなので、その間は実家のガレージに待機させています」

愛車との思い出・エピソードはありますか?

ク「去年の夏、友人達と音楽フェスへ行きました。3日間泊り込みだったんですけど、私は愛車に寝泊まりしました。それくらい快適な車内なんです。あと、購入して3ヶ月後に高速道路上で突然止まってしまった時は焦りましたね。燃料計を見たところ全く問題なかったのですが、実際は空っぽだったんです。運良く通りかかった人がディーゼルを持ってきてくれて助かりましたよ。40歳を超えたクラシックカーは、新車のように機能しないこともあります。歳を重ねる点では人間も同じですよね」

壊れたことはありますか?

ク「小さな問題は日常茶飯事ですよ。でも結構シンプルな構造なので、大体のことは自分で直せちゃいますね。もちろん2年に一度は車検に出して、プロにメンテナンスチェックしてもらっています」

車を含め、モノ選びで大切にしている事は何でしょうか?

ク「ベースにあるのはヴィンテージ。物心ついた頃から古いものが好きなんです。特にアール・デコやフランスのヴィンテージムーヴメントはどんぴしゃですね。あとはそこに宿るストーリーや雰囲気に注目します。色々ありますけど、やっぱり最後はシンプルにフィーリングですね」

最後にクラシックカーの魅力とは?

ク「ヒストリーとインダストリーを守ることです。例えば、私の車は南フランス出身、これまでのオーナー達から受け継がれて来たサービスペーパーも全て大切に所有しています。どんな修理やサービスを受けてきたのか、時を超えて愛車の歴史を知ることが出来るんです。まさに愛車の伝記ですね(笑)あと、古いものは神秘的な魅力も兼ね備えています。それぞれのクラシックカーが持つスペシフィックなデザインやインテリアは、まさに架空の別世界へといざなってくれるんです。現代の車と違って、レザーや木、メタルなど本物かつナチュラルな素材を使っている所もたまりません。現代に受け継がれるクラシックカーデザインは当時よりもますます抽象的に映ります。こういうところがやっぱり好きですね」

photograph: Saki Hinatsu

interview: Yukiko Yamane
edit: Takafumi Matsushita