「シルエットとクオリティ、そしてそこにあるストーリーや歴史を重要視しています」

ドイツの伝統を愛し、継承し続ける生粋の職人肌ファッションデザイナー、フランク・リーダーさん。深みのあるアトランティックブルーが美しいBMW 1602に乗って早5年。ドイツ製を好んで愛用する彼の仕事とライフスタイルはジャーマンカルチャーなしには語れない。唯一無二の世界観溢れる彼のショップ兼スタジオにて、もの作りへの姿勢、愛車とのストーリー、モノ選びの基準について伺ってきた。

フランクさんがドイツ・ベルリンを拠点とする理由とは何でしょうか?

フランク氏(以下フ)「私はロンドンのセント・マーチンズ美術大学で学んだ後、母国ドイツへ戻ってきました。理由は2つあります。1つは自分のルーツでもあるドイツの文化・伝統に興味があったこと。2つ目はアイデアを明確にプロダクトへ落とし込むためには、クラフトマンに正確に伝えることができる母国語が必要だったこと。長年の経験と伝統のある小さな町工場のクラフトマン達にどういうものを求めているのか、母国語で伝え、細部まで忠実に理解してもらうことが重要なんです。こういった生のコミュニケーションにおいても、ドイツを拠点とすることに大変意味があります」

来季のコレクションのことを教えてください。

フ「テーマはボクシング。マックス・シュメリングというドイツのプロボクサーがキーパーソンになります。僕の祖父はアマチュアボクサーの経歴もあり、戦時中に祖父の軍隊へ入隊してきたマックスと光栄にも試合する機会を手にしました。結果、祖父はノックアウトされてしまいましたが、その時のことをずっと誇りにしているんですよ。あと、近所にDienerっていう昔ながらのクナイぺ(ドイツ流の大衆居酒屋)があるのですが、そこは元々ボクシングクナイぺ。オーナーも元ボクサーで、彼もマックスと戦ったことがあるそうです。実際に訪れてみて気に入りましたし、ルック撮影もそこでやりました」

それでは愛車についてですが、BMW1602を選ばれたきっかけは何でしょうか?

フ「クラシックカー特有のシルエットとアトランティックブルーのカラーが決め手でした。あとドイツにいるので、ドイツ製の車に乗りたいんです。もしイギリスに住んでいればイギリスの車に乗るでしょう。ここにも面白いストーリーがあります。1970年代、当時ドイツ赤軍RAF、別名バーター・マインホフが、逃走する際に好んでBMW 02シリーズを窃盗していました。当時のパトカーも同シリーズで、彼らを追いかけるのですが、RAFはいつもターボ搭載のものを選ぶため、パトカーより少し早かったんです。この近所に古いパーキングエリアがあるんですけど、そこが逃げ切った彼らの窃盗車を隠す秘密の場所でもありました。いつかそこを自分用に借りても良いかもしれませんね(笑)暗くて危ない雰囲気なんですけど、かっこいい場所ですよ」

どんな時に乗るのでしょうか?

フ「主にプライベートで使っています。夏にベルリン郊外の湖へドライブへ行くのですが、それが最高に気持ち良いんです。仕事の息抜きも兼ねて、よく行くんですよ。私の夏の楽しみの一つです」

内装で気に入ってるのはどこでしょうか?


フ「カセットテープデッキです。この車に乗り始めて、改めてカセットテープも聴き始めました。今入れてるのはブライアン・フェリー。カセットテープは西ドイツ製です。あとは、味のあるレザーの座席ももちろん気に入っています」

カスタムしたところはありますか?

フ「前のオーナーがカスタムしているので、自分では手を加えていません。例えばフロントのエンブレム。あとフロントバンパー下のランプも彼がカスタムしたものです。この車はイタリアで購入したんですけど、前のオーナーがイタリアンロックスターだそう。ドイツで使用されたクラシックカーだと、天候の影響もあってコンディションが悪いことがあるのですが、イタリアで使用されていたので、状態はとても良いです。彼のカスタムも気に入っています」

車との忘れられないエピソードはありますか?


フ「実は大きなアクシデントがありました。市内から外れた旧道を走っている際、対向車と接触したんです。その時は無事だったのですが、2回スピンしてしまって、本当に恐ろしい思いをしました。そんな人生の困難も共にしたため、余計に愛着が湧いてしまって、その後も修理に出して大事に扱っています。今は何も問題ないですよ。とにかくこの車との思い出が多過ぎて、これからもまだまだ一緒にいたいですね。私の愛犬アズキもこの車が好きで、目を離すといつも運転席に座るんです」

ドイツの歴史や人々、自然をインスピレーションソースとしていますが、車からインスピレーションを受けたことはありますか?

フ「制作の際、マテリアルからインスピレーションを受けるように、車からもライフスタイルに関するインスピレーションを受けることは多いです。手動のギアに関しては、たまに筋肉痛になることもありますが、独特の匂いや、エンジン音、全てがモダンカーよりも優れています。ブランドのコレクションに直接繋がるインスピレーションはまだ具体的に無いのですが、今後あるかもしれませんね。その時はぜひ先程お話しした近所のパーキングエリアで撮影したいです」

車を含め、デザイナーという職業柄、モノ選びで大切にしている事は何でしょうか?

フ「シルエットとクオリティ、そしてそこにあるストーリーや歴史を重要視しています。また、そのストーリーと私のクリエイション、ライフスタイル全てが繋がっているということも極めて重要です。車に関しては、1970年代から1980年代中期にかけてが私のベストです。1960年代は私にとって古過ぎるので、あまり興味がありません」

最後にクラシックカーの魅力とは?


フ「香りや触った感触、マテリアルの質感、ビンテージ感、これらクラシックカー独特の味が最大の魅力です。モダンカーにはテクノロジーや利便性がありますが、私の大切にしているそれらは欠けています。クラシックカーにはそれぞれキャラクターがあり、その点ライフスタイルにも通じていると思います。それは私の生み出すガーメントも同じ。これからも愛車、そしてブランドとのストーリーを紡いでいきたいです」

photograph : Saki Hinatsu

interview : Yukiko Yamane