2016年の初回以来、特別展示を含め毎回出展を続けているマツダ。世界で唯一、ロータリーエンジンの実用化に成功したメーカーとしても知られるが、今回のテーマは「ロータリーエンジンの可能性の追求と新しい価値への挑戦」。マツダの飽くなき挑戦の精神の象徴であり、アイデンティティである3台のロータリーエンジン搭載車を中心に4台を展示した。

今から60年以上を遡る1960年、ロータリーエンジンの開発メーカーである西ドイツ(当時)のNSU社とライセンス契約を結び、その開発を始めたマツダ。三輪トラック主体の地方の商用車メーカーに過ぎなかったマツダは、ロータリーエンジンの開発こそが自身の存在価値を示し、世界へのパスポートとなるに違いないと信じて、社運を賭した不退転の挑戦が始まったのだった。

それから実用化までは技術的課題が山盛りで、果てしなく続くかと思われた茨の道だった。その壁を乗り越えて、1967年に世界初となる2ローター・ロータリーエンジンを搭載した「コスモスポーツ」を発売。軽量コンパクトで高性能なロータリーエンジンは世界中の注目を集め、マツダは「モータリゼーション」をもじって「ロータリゼーション」を唱え、普及を推進した。その目論みが成功したかと思われた頃、1973年に勃発した第一次石油危機によって潮目が変わった。ロータリーエンジンは燃費が悪いということで市場から敬遠され、せっかく実用化したのも束の間、存続の危機を迎えてしまったのだ。

今回の展示車両の1台目は、その危機を乗り越え1975年に発売された高級スペシャルティカーの「コスモAP」。APとはアンチ・ポリューション(反公害)の頭文字である。この頃から始まった排ガス規制をクリアするため、他社のレシプロエンジン搭載車が大幅な性能低下を余儀なくされたなか、改良型のロータリーエンジンは未対策車と同等の性能を維持。なおかつ石油危機後の省資源要求に対して燃費の改善を達成したのだった。

2台目は2006年にリース販売が開始された「RX-8 ハイドロジェン RE」。水素でもガソリンでも走行できるデュアルフューエルシステムを採用、ロータリーの持つ燃料の多様性や拡張性の高さを生かしたロータリーエンジン車である。燃料に水素を使った場合は、内燃機関ならではのトルク感、加速感、排気音などを損なうことなしにCO2(二酸化炭素)の排出をゼロ、NOx(窒素酸化物)もほとんど排出しない優れた環境性能を誇る。またガソリンでも走行可能なため、水素が入手できないときもインフラの不安がないという特徴を持つ。

そして3台目は、会場で国内初お披露目となる「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」(欧州仕様車)。ロータリーエンジンを発電機として使用し、コンパクトで高出力なモーターで走行するプラグインハイブリッド車で、電欠を心配することなしに意のままに走りを楽しめる。

これらロータリーエンジンの「歴史」と「今」を伝える展示を背景に、プレスカンファレンスに登壇した取締役専務執行役員 青山裕大(やすひろ)氏は、次のように語った。
「ロータリーエンジンの歴史は、走る喜びと環境性能の両立の歴史です。同時にそれは、ロータリーを愛好する世界中のお客様、ファンの情熱に支えられてきた歴史でもあります。2012年以降、ロータリーエンジン搭載市販車はなく、このまま消えてしまうのかとファンの皆様にはご心配をかけているが、マツダとしてもけっしてロータリーをあきらめたくない。作り続けたい。まだまだ可能性があるロータリーを、どのような形でも、たくさんじゃなくても、作り続けることが大事だと思っています」

そして、こう力強く結んだ。
「地球温暖化抑制、カーボンニュートラルへの対応は果たすべき社会課題ですが、同時に心ときめく移動体験、生き生きと暮らす楽しさ、喜びも大切にしたい。マツダはマツダらしいやり方で飽くなき挑戦、魅力的なクルマ作りを続けていきます。そして、時代を超えてクルマのある人生の楽しさを追求していきます」なおロータリーエンジン搭載車ではないが、1981年の東京モーターショーに参考出品されたベルトーネ・デザインのコンセプトカーであるMX-81も展示され、注目を集めていた。

展示車両

マツダ コスモAP
マツダ RX-8ハイドロジェンRE
MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EV (欧州仕様車)
マツダ MX-81