「モノというより相棒のような愛着。人間っぽさがあって癖もあるけど、そこが好き」

デジタルによる表現が進化する現代において、あえてフィルムによる独特で味のある写真を好む竹中さん。彼が愛する車は「トヨタ・マークⅡのバン」。元々、とあるおじいさんが大切に乗っていて高齢のために免許を返却するのがきっかけで市場に出たものだそう。「そういう想いがあるストーリーに惹かれました。“人間らしい”と思います。それはカメラにも共通していて、フィルムカメラは『ライカM6』を使っているのですが、それと似ていて“人間味がある”。アナログなものは、癖もあるのですが、逆にそこが好きですね」と竹中さん。相棒としての車、写真…その愛情について伺ってきた。

竹中さんはファッション系の写真をはじめフォトグラファーで活躍されていますが、この職業を目指したきっかけは何でしょうか?

竹中さん(以下竹)「高校生の頃は映像の方に興味があって映画やCMの制作をやりたいと思っていたんです。それで専門学校に通ったのですが同時にスチールのカメラも勉強するようになって、撮っていくうちにとても楽しいことに気づきました。映像の場合、チームを組まないと作品ができないのですが、スチールは1人で作品が作っていける。その手軽さも良かったんだと思います」

竹中さんは写真家の横浪修さんのお弟子さんだったとお聞きしていますが、学校卒業と同時につかれたんですか?

竹「いえ、まず入りたいスタジオがあったのでそこを経験してから横浪さんのところに。どちらも大人気の環境でなかなか入れない所だったのですが『もし希望して駄目だったらカメラマンを辞めよう』という気持ちで望みました。スタジオの時は社長に直接熱い手紙を書いて…後日『お前は面接なしでいい。下着だけ持って来い!』って(笑)。2人だけ入居可の寮を用意してもらえました。そろそろスタジオを卒業しようと思った時に横浪さんが自分のスタジオに撮影にいらっしゃって、昔から憧れの方だったのでどうしてもアシスタントになりたかったので、その場で思いを伝えようと思ったのですが、その日お風邪で体調悪そうだったので、言えなくて…。でも後日ご連絡させて頂きしっかり想いを伝えてアシスタントになることができました」

人生の岐路の場面では「受かるか、辞めるか」の気合いなんですね。横浪さんのところで学んだことは何でしょうか?

竹「僕は凄く尊敬していまして、カメラマン以前の『人として』を多く学びました。誰に対しても平等に扱います。例えば、スタジオ撮影の時はスタジオマンにもしっかり気を配ります。『あの子、まだご飯食べてないんじゃない?』と気づいて食べさせてあげたり。『スタジオマンの子も同じ仲間だ』と。僕もそういう人間になりたいと心から思います」

竹中さんの写真は、フィルムを使った作風のイメージがあります。味がある感じ。

竹「ライカの『M6』というカメラをよく使います。レンズが好きで、昔作られたものでとても癖があります。ハレーションもよく起こりますが、逆にその風合いが好きですね。フィルムだと自分の魂も乗っているというか。特に人物撮影が多いので、写真も魂がのっていると自然と良くなる。出来上がったモノを見比べると気持ちが乗っているモノはやはり違うなと思います」

写真を撮る時に大切にしていることは「人間味」でしょうか?

竹「はい、それも横浪さんから学んだことですが、人間味を写真に出すために、モデルとの間合いを大切にしています。相手が気持ちいいところでシャッターを押したり、自分の気持ちいいところでシャッターを押したり。もちろん光とかも大事ですけど、技術的なことより人と人が重要ですね。レンズを向けられると怖いイメージがあると思うので、いかに自然に懐に入れるかを意識しています」

それでは愛車のことについて。「トヨタ・マークⅡ」を選ばれた理由は何でしょうか?

竹「カメラマンアシスタントの頃に、街でこの色のマークⅡをみかけて『カッコいいなぁ』と思って家に帰って調べて。独立したら絶対これに乗りたい!って夢でした。角張っていて渋くて…一目惚れですね。写真もフィルムでやっていて、クラシックなものが好きなんですよね。温かみのある感じや人間っぽいところ」

どのように見つけたのですか?

竹「独立してずっと探していて、ネットでやっと見つけました。前回、乗っていた方がおじいさんで免許を返却しなければならないので売ることになった、とお聞きして。大事にされていたんだろうな、とそのエピソードを聞いた時にグッときて、現物を見ずに即決しました」

実際に乗り始めてどうでしたか?

竹「凄く丈夫な感じで乗りやすいです。故障した時に部品も沢山あるそうなのでその辺りは安心しています。フェンダーミラーが特徴的で最初乗りづらかったのですが、すぐ慣れましたね。困るのは立体駐車場でたまに断られるくらいです。また、高速道路がはじめは怖かったです。家族で、千葉に高速で行ったのですが車が軽いので、風でゆれて…そこはちょっとショックでした。100kmを超えると揺れるので、家族も怖がってました。でもエンジンはいいので心配いらないんですけどね」

内装は、購入してそのまま使っていますか?

竹「はい、全くいじっていないです。前に乗っていたおじいさんが大事に乗ってくれていたおかげです。この年代のものでここまでシートが綺麗なのはなかなか無いと思います。内装で特に好きなのは時計の位置とかですかね。ちょっと意味不明なところについていたり」

不便だけれど愛しているところはありますか?

竹「窓のクルクル回すヤツ好きです(笑)。不便なのは今の車だと鍵は運転席をしめると全部のドアが閉まるのが、これは一つ一つ閉めないといけないんです。でも慣れました」

クラシックカーだからこそ体験できるエピソードは?

竹「話が生まれますね。普通だと話をしない方と会話になったり。カッコイイ、懐かしいなど。また、これでよくスタジオに撮影に行きますが、スタッフの方などにも懐かしいね、とか、お父さんが乗ってました、とか良く言われます」

内装、外装かなり綺麗ですね。お手入れは大切にしていらっしゃるかと思います。それも愛情ですね?

竹「こまめに掃除はするようにしています。何でも手入れは大事。クラシックカーは汚れてたら見すぼらしく感じてしまうので。これはカメラにも共通しますが、手入れをすることで愛着が出てくるんです。仕事上、フィルムカメラだけでなくもちろんデジタルカメラを使うこともありますが、フィルムカメラの方をよく手入れしています。手入れしていないと止まりそうなんで。モノというより相棒のような愛着があります。カメラも車もそうですが、モノ選びで好きなのはやはりアナログなもの。昔のものはずっしりと重みがある感じが好きです。便利なだけじゃない、人間らしいところ、相棒っぽいところ。裏側のストーリーにぐっとくるんです。このマークⅡも大切に乗っていけるところまで一緒にいたいと思っています」

photograph : Taku Amano
interview : Yuto Murakami
edit : Takafumi Matsushita