1915年の創立以来、100年以上にわたって日本における輸入車の歴史をけん引してきたヤナセ。「最上質な商品、サービス、技術を感謝の心を込めて提供し、夢と感動あふれるクルマのある人生をつくる」という同社の企業理念を具体化すべく、2018年に設立されたのがヤナセ クラシックカーセンターである。ヤナセが長年の経験から培った技術力とネットワークを生かし、往年の名車をヤナセクオリティで蘇らせること、そうしてレストアあるいは整備した車両を販売することが、主たる業務内容である。

同社では、ヤナセが蓄積したナレッジ(knowledge)すなわち知識や情報、そして技術を次世代に伝えていくことは、単に自社内の後継者の育成に留まらず、クラシックカーを後世に残すという点で文化的な意義があると考えていることから、オートモビルカウンシルの主旨に賛同。今回で3回目の出展となる。

ドイツの技術、安全、証明サービスに関する認証機関であるテュフ・ラインランドによる最上級のクラシックガレージ認証や各メーカーによる認証を受けた同社のファクトリーには、特殊な技術が必要とされるアルミボディの修復も可能なボディショップ、エンジンやトランスミッションなどのリビルド施設を用意。専任のテクニシャン7名、アドバイザー1名、アシスタント2名というスタッフが、あらゆるレストアや修理の要望に応える。またレセプションルームでは顧客の希望に応じてレストアや整備のカウンセリングも実施し、ヤナセが所有する貴重な資料も閲覧可能という。

今回、ブースには7台の車両が展示された。前列に並べられた3台(3世代)のメルセデス・ベンツSLは、クラシックカーセンターの販売車両。うち2台、1989年560SL(R107)と1993年500SL (R129)は、ヤナセがインポーター時代に正規輸入して販売した車両をベースとし、不具合の修理および長年の経験から知る弱点の予防整備を行ったうえで車検を取得、6カ月または走行5000kmのヤナセクラシックカー保証付きで販売される。これらは従来どおりのサービスに則ったモデルだが、残る1台となる1968年280SL (W113)は新たなパターンの販売車両。ベースカーがいわゆる並行輸入車で、整備販売という点は正規輸入車ベースと同じだが、ヤナセクラシックカー保証は付かないというものだ。

ブースほぼ中央に置かれた1958年メルセデス・ベンツ190SL(W121)は、ヤナセ クラシックカーセンターによりフルレストアされた車両第1号。前々回の会場にはレストア作業開始前の状態、前回は板金塗装が仕上がったボディ単体で展示されたが、3回目の出展となる今回は機関部分や内外装部品の組み付けも終了し、99%完成した状態とのこと。仕上がり具合を確かめられるよう、ボンネットを外した状態で展示されたが、論より証拠、同社の緻密な仕事ぶりを示す格好のサンプルといえる。

あとの3台は、ヤナセの歴史を刻んだ車両である。1953年メルセデス・ベンツ220(W187)は、直6SOHC2.2ℓエンジンを積んだ今日のSクラスのルーツ的なモデル。ヤナセの子会社だったウエスタン自動車により正規輸入された個体で、日本で積み重ねた年輪を感じさせる、未再生と思しきコンディションだった。フォーミュラVeeは、1960年代にアメリカで流行った、通称ビートルことフォルクスワーゲン1200のメカニカルコンポーネンツを流用した入門者用フォーミュラカー。ヤナセがフォルクスワーゲンのインポーターだった1967年に輸入され、同年の東京オートショー(外車ショー)に出展された個体そのものという。残る1台はやはりヤナセが昔から所有する1951年メルセデス・ベンツ170Sカブリオレ(W136)で、関連会社のヤナセオートシステムズが取り扱う、空気循環システムを採用した車両保管ツールであるカーカプセルに収められた状態で展示された。独特なオーラを放つこれらの車両からは、ヤナセが歩んできた歳月の重みと、それに裏付けられた老舗の矜持が伝わってくる。

出展車両

Mercedes-Benz 280SL
Mercedes-Benz 560SL
Mercedes-Benz 500SL
Mercedes-Benz 190SL
Mercedes-Benz 170SC
Mercedes-Benz 220
Formula Vee